Raven Emperor―episode zero―

age20 紅葉  鴉と呼ばれる男


それは・・・彼がまだRaven Emperorと呼ばれていない頃の話。









薄暗い路地、ぶつかり合う鈍い音が響く。

チカチカと切れかけの街頭が照らす数人の若者たちは、殴り合いの真っ最中。


「てめぇすかしてんな」

「この人数に勝てると思ってんのか」

「やっちまえ」

乱暴な言葉を吐きながら1人の男に襲いかかる若者たちは5人。

明らかに男の方が部が悪いように思えたが、立ち向かってくる若者たちを容易に殴り飛ばしていく。


殴りかかってきた若者を優雅にいなし、横っ腹に渾身の蹴りをお見舞いする男は黒に染まっている。

次の攻撃を仕掛けた若者は、振り返り様に男が放った裏拳を顔に受けて鼻血を垂れ流した。

若者たちが地面に膝をつく中、男だけが両足でしっかりと立っている。



満身創痍になりながらも殴り掛かってくる若者たちの中で、男だけがゆるりと口角を上げて楽しそうに拳を振るっていた。

黒に包まれた男はとても異質に見える。




「こんなもんかよ? 弱ぇな」

血の付いた拳を黒いレザーパンツで拭った男は、胸ポケットから煙草を取り出してくわえた。

カチンとなるオイルライター、くわえた煙草の先にジジッと赤い火が灯る。



「くそう、舐めんな」

ぐらつく体を立て直して立ち上がった若者が吠える。


「かかってこいよ」

クイクイと指挑発する男に、傷だらけの若者たちの顔が歪む。


「お前ら立て、こっちは5人だ。一斉に奴を狙うぞ」

その言葉に若者たちは最後の力を振り絞って立ち上がると、一斉に男に襲いかかった。


「上等だ」

くわえ煙草をしたまま、口角を上げた男は楽しそうだ。

迫ってくる若者たちを目の前に紫煙を静かに立ち上らせたあと、煙草を地面に吐き捨てた。

それが合図のように戦いが再開する。


怒号が飛び、乱れ合う足音が響く。

身を打ち付ける鈍い音、苦しげな呻き声。


チカチカと点滅していた街頭は、その役目を終えて光を灯す事を止めた。

暗い闇が広がるそこは、地獄の入り口のように思えた。




「沈め」

低い声で唸った男はとても残忍な笑みを浮かべて漆黒の瞳で若者をとらえた後、最後の1人を容赦なく蹴りとばした。

男以外、その場に立つ者はもう居ない。

黒に染まり、黒を好む男だけがその場を支配していた。

倒れる若者たちを見据える男の瞳に感情はない。

闇の中、男の広げた黒い羽根だけがゆっくりと広がっていく。



鴉のように黒に染まる、漆黒。

月明かりが照らそうとも、男の纏う黒は光を通さない。

ふいに吹き抜けた風が髪を揺らし、美しく残酷な笑みを浮かべた男の顔をさらけ出した。

0
  • しおりをはさむ
  • 247
  • 6510
 
/ 58ページ
このページを編集する