オッサンの昔話 

コブシ
ノンフィクション・実話 4ページ(連載中) 6655字 更新日 2019/02/10 読者 27人 公開 0 0

今から30年くらい前の話。




16歳でいろいろあり、家を出され、ある施設に預けられた私。




労働基準法?知ったこっちゃねぇ!




今じゃ考えられないんだけれど、朝早くから夜9時10時まで働かされていた。




休みなんてほとんどなく、あっても事務所の電話番という軟禁されたような休みくらい。




「上等だよ!こんな家出て行ったるわ!」




そんな威勢のよさもどこえやら。慣れない日々に気が塞ぎ込んでいた。




そんな日々を数か月過ごしていたある日。




「おい!コブシ!最近、元気ないなあ。俺が気晴らしにおもろいとこ連れて行ったるわ!」




朝、そんな元気のなかった私に、声をかけてくれたDさん。




一緒に寝泊まりしているDさん。




私と同じ部署で、直属の上司であり、普段から何かと私を気にかけてくれていた。。




どこの世界にも、こんな人は必ずいる。




そんな優しさが、その頃の私には胸に沁みた。




夜の仕事が終わり、一息ついていた私。




「おーい!コブシ、行くぞ!」




約束通りDさんが声をかけてくれた。




「これ着ていけ!」




Dさんは一着のスーツを手渡してくれた。




どこに連れて行ってくれるのか、ワクワクした私。




スーツでビシッと決めたDさんと、生まれて初めてスーツを着たぎこちない私。







二人でタクシーに乗り込み、ネオンが輝く華やかな街へ。







私にとっては別世界だった。







あるビルの前でタクシーは止まった。







エレベーターに乗ったDさんは、手慣れた様子で「5」という数字を押した。







何だかわからないアルファベットで書かれていた店のドアをDさんが開けた。







「あ~らDさん!いらっしゃい!」







Dさんはここの常連らしく、ママさんらしき人が出迎えてくれた。







「今日はおもしろい奴連れてきたから!」







笑いながらDさんはママに言った。







ボーイさんに案内され、ボックス席に座った私たち。







「いらっしゃいませ~!」







ほどなくして、甘ったるい声と共に、ママさんと一人の女性がそれぞれ私たちの隣に座った。







私は田舎の中学出身で、女性との免疫がまったくなかった。







私の隣に座った女性は、きらびやかな服装のせいじゃなく、あきらかに輝いて見えた。







「どうも~、初めまして!ナツコで~す!」







「ど、ど、どうも・・・」







私は照れくさくて、目を合わせられなかった。







ナツコさんは19歳。







触れ合っている膝が気になり、少しずつ離してしまう私。







その度にまた膝を擦りつけてくるナツコさん。







「コイツな、実は16歳やねん!」







タバコをくわえながらDさんが言った。







阿吽の呼吸でママさんがDさんに火を着ける。







「え~、未成年がこんなとこ来ちゃダメじゃな~い!」







笑いながらママさんは言った。







ナツコさんも笑っていた。







「コイツな、俺と同じで16歳で家出されて、頑張ってんねん!」







「え~スゴ~イ!」







塞ぎ込みがちだった日々がウソのように一瞬で吹き飛んだ。







私は女の子とほとんど喋ったことがなかった。







だから、せっかく二人で喋っているのに、ナツコさんの顔を見ずに、よそ見ばかりしていた。







たまに、向いの席に座っているDさんが、こちらに「楽しいだろ?」と言わんばかりに目配せをしてくる。







でも、話している時にチラッと目が合うナツコさんは本当に可愛かった。







「コブシ、そろそろ帰るか!」







二時間くらい過ごしただろうか。私は正直、「え、もう帰るの?」って思った。







「また、逢えたらイイね!」







帰り際、私にすり寄ってきて、下から覗き込むように笑ったナツコさんの顔。







今日、出会って1番可愛いと思った。







手渡された名刺。







「今日はコブシちゃんに会えてよかった!」







名刺に書かれていた言葉。







今だったら、営業、営業。って思えるんだけど、16歳の少年には刺激が強すぎだった。







もう私の心は奪われていた。







次の日から、頭の中はナツコさんで一杯だった。







どうしても、ナツコさんに会いたくなった私は一人で行く決心をした。







私の住んでいたところは、基本的に門限はなく、夜9時くらいから自由になり、朝6時からの掃除の時間に間に合えば問題なかった。







3日後、夜の仕事が終わり一人でタクシーに乗り、名刺に書かれている店に向かった私。







「スターダスト」







この間行った時は気づかなかったけれど、店にはそう書かれていた。







さすがに扉を開けるときは緊張した。







2,3度深呼吸して扉を開けた。






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