究極の2択からの~ 

作者コブシ

「アンタ~郵便きてるで~!」


仕事から帰った私に、妻が1通の封書を手渡した。


見ると、結婚式の招待状だった。


「Fか・・・久し振りやな・・・。」


20数年前に、家業の養成所で同期だったF。


その当時、Fは18歳、私は24歳。


高校出たてで、ヤンチャの部分が抜けきれない子だった。


私も若かったので、一度何が原因だったか忘れたけど、衝突しかけた事もあった。


険悪な雰囲気になったけど、いつの間にか仲直りしていた。


今となっては良き思い出といったところか。


18年前に、私の結婚式で会って以来だった。


「そうか・・・アイツも、そんな年になったか・・・。」


妙に年月の経過を感じ、ノスタルジックな気持ちになった。


同期生たちも何人か来るだろうから、久しぶりに会えるのが楽しみだった。


結婚式は神戸。


私の住んでいる県は岡山。


酒を飲むだろうから、車ではなく、高速バスで行く事にした。


「なんで泊まらなアカンの?日帰りでエエやろ。」


本当は泊まりたかったけれど、妻が許可するはずもなかった。


という事は、最終時刻が23時半くらいだったので、気を付けなければと思った。


ま、夕方から二次会したとして、23時には終わるやろ。


この時、一抹の不安がよぎった・・・。


結婚式当日。


早めに着いた私は、結婚式場で開かれていた式を覗いた。


Fの結婚式の真っ最中だった。


アイツもすっかり大人の顔になったな・・・。


またしても、ノスタルジックな感情に浸っていた。


私も年をとったのか、こんな感情になる事が多くなった。


「おぅ!コブちゃん!」


懐かしい声。


後ろから声をかけられた。


振り向くと、Mちゃんだった。


年は私より一つ下。


けれど、お互い「ちゃん」づけで呼びあっていた。


Mちゃん自身とは仲が良いんだけれど、私とMちゃんには、「あるいきさつ」があった。


私のいる業界は、ある一つの大きな組織で、複数のグループ会社で構成されていた。


Mちゃんは、そのうちの1つTグループのナンバー2の息子。


つまり、育ちが雑草の私と違って、血筋がいい。


私が所属していたのはDグループ。


そのDグループの養成所は、業界でも一目置かれるほど厳しさで有名だった。


そのせいか、それぞれのグループ会社に養成所があるけれど、わざわざ箔をつける為、Dグループの養成所に入る人もいた。


私は卒業したら、Dグループに勤める予定だった。


以前、私は高校生の頃、Dグループの会社に住み込みで働いていた。


私自身も、そのつもりだった。


養成所を卒業した私とMちゃんの行き先で、上の人間同士が揉めた経緯があった。


でも、揉めていたのは上の人間だけで、私とMちゃんは仲が良かった。


「コブちゃん、来てんの俺とコブちゃんだけみたいやで。」


先に受付を済ませていたMちゃん。


座席表を見せてもらった。


「ホンマや!」


Fは、卒業してから、業界に入らず、何故かトラックの運転手をしていた。


座席表には、勤めている運送会社の人間が多数を占めていた。


そうこうしているうちに、結婚式が始まった。


私とMちゃんのテーブルには、Fの高校のツレたちと、新婦の友達二人という組み合わせだった。


F勤めいる運送会社の上司による、Fのトラック運転手としてのヤンチャな無茶話や新婦の友達によるほのぼの話。


「なんでF、俺らしか呼んでないんかな?」


二人しかいない同期のMちゃんと私。


「アイツ、俺らの事、黒歴史にしてんちゃう。」


笑いながら答えた私。


Mちゃんが呼ばれたのは、合点がいく。


養成所時代、Fとは常に二人一緒だったからだ。


なんとなく思った事。


私とMちゃんに共通している事。


それは、同期のなかでも、1、2を争うくらい外見がイカツイ事。


それくらいしか思い浮かばなかった。


結婚式も滞りなく進行していき、お開きになった。


二次会は2時間後だった。


「Mちゃん、どうする?」


運送会社の人間がほとんどを占める中で、俺たちは二人だけ。


結婚式を通じて、その運送会社独特なノリについていけなさそうな感じがした。


「帰ろか。」


「せやな、ま、Mちゃんと会うんも滅多にないし、ちょっとそこらで飲んでから帰るか。」


Fには申し訳ないけれど、二次会は遠慮する事にした。


どうやら、高速バスで帰れそうだと安心した。


ただ、少し残念だった。


滅多に飲めない相手と、もっとじっくり飲みたかった。


私の結婚式なんか、二次会は新郎新婦別れて、朝5時まで同期たちと飲み明かした。


Mちゃんと、式場近くにあった17時からやっていた居酒屋に入った。


まだ、早すぎるせいか、客は私たちだけだった。


注文して、あり得ないくらいの早さでくる料理をつつきながら、仕事やお互いの子供の事を話した。


小一時間ほどした時、Mちゃんの携帯が鳴った。


「Mちゃん、どこにおるん?コブシさんと一緒?」


Fからだった。