田舎町人魚姫

田舎町人魚姫 /懐柔



と、まあ、そんなこんなでこの人に神隠しという救済を受けたわけで。

ここでの生活は早1週間程。

住み心地は実に快適の上々。

お狐様の家は神社の裏手に建っていて。

外界から隔離された年季の入った純和風の家。

周囲は見渡す限り目に優しい緑に溢れ、風が吹けばザワザワとした木々のざわめきに聴覚からも癒される。

来訪も参拝者くらいで人の出入りも少ない。

社交的で人間付き合いが好きな人からしたらこの環境は発狂してしまいそうなくらいに静かで華がないのかもしれないけれど。

元々これといった交友関係もない私にとっては何不自由ない神隠しライフ。

何より、この人の存在が、纏う空気が心地良い。

声の質も、触れ方も、覗き込めば絡む視線の感じも。

面越しであるのに優しいものだと何故か感じられるんだよな。なんて、膝の上の黒髪をひと撫でしたタイミング。

「飽きませんねえ」

「…えっ?」

「こんなおっさんを甘やかす事に。愛でて可愛い反応をするでもなしに…」

「可愛いですっ!」

「……」

「お狐様は可愛いですよ!?もっと可愛いと言う自信と自覚を持ちましょう!」

「…ぶっ、クックックッ…相変わらず可愛いの基準が分からない子だねえ。まあ、おっさんとしては若い子にチヤホヤされて満更でもないんだけどね…」

「じゃあ、存分に懐きましょう!甘えましょう!任せてください!全力で愛で尽くしますからっ!」

「ククッ…っとに……この子ときたらねえ…」

どんとこいとばかり。

すでに膝に頭を預けている姿にもっと甘えろと両手を広げてみせれば、すぐに響き返される失笑の声音。


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