どうしても君が好き

第1章 /Ⅳ 電話




凜が家に帰ったときには、すでに8時を回っていた。


「遅かったわね」

家に入ると、凜の母、緑は食器を洗っているところだった。

「友達の家で飲んでたらそのまま寝ちゃって」
凜は軽く舌を出して言ってみた。

「連絡くらいしなさいよ」

さすがにこれは怒られるかも、と凜が覚悟したとき、緑はクスッと笑って言葉を続けた。

「―――でも、寝てたら連絡できないわよね」

凜は、自分の母ながら、緑を可愛いと思った。

緑は年の割に若く見える。
一緒に買い物をしていたときに、お店の人に姉妹と間違えられることもあった。

「今度からは帰られそうにないなら、あらかじめ連絡しなさいよ」

「はーい」

緑は、凜の返事を聞くと、元の作業に戻った。


言及されなくてよかった。
凜はホッと胸を撫で下ろす。

凜は、帰り道、言及されたときに言い返す言葉を考えていたが、深く言及されればボロが出るものしか浮かばなかった。

友達というのはあながち間違っていないとは思うけれど、その友達が誰かと聞かれると言葉に詰まってしまう。

でも、意外にも緑はあっさりしていて、取り越し苦労に終わった。

よく考えれば、もう一人暮らしをする社会人の娘の生活に口を出すことなんて、普通はしないかもしれない。



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