どうしても君が好き

第3章 /Ⅰ 喧嘩



朝、会社に着いて、エレベーターが下りてくるのを待っていると、後ろから肩を叩かれた。
凜が振り向くと、財務部の佐竹智樹が立っていた。
佐竹は、部署は違うが、凜の先輩にあたる。

「おはよう」

「おはようございます」

凜は、佐竹のことが苦手だった。

「ここで会うなんて運命みたいだね」
佐竹は口角をニヤッと上げて言った。

「そうですか?同じ会社ですから、ここで会うこともあるでしょう。それなら、かなり多くの人が運命の人になりますよ」
凜は淡々と答えて、笑って見せた。

「でも、凜ちゃんじゃなかったら声かけてなかったよ」

佐竹の笑顔はどこか嘘めいている。

「そんなこと、他の女の人にも言ってるんでしょう?」
凜は責めるように言った。

凜は、疑問形で言ったが、そうであることはよく分かっていた。
本当にその答えが欲しいわけではない。

佐竹の女好きが激しいのは、特に女性社員の中ではよく知られていることである。

凜は、まさか自分が標的になるとは微塵も思っていなかったが、いつからか目をつけられ、こうやって会社内で話しかけられるようになった。

経理部は財務部と関係が深い。
よく財務部を訪ねることも多く、そのときに凜の姿を見て、狙いを定めたのだろう。

「今は凜ちゃんだけだよ」

勝手に“凜ちゃん”なんて馴れ馴れしく呼ばないでほしい。

「私に嘘は通じませんよ」
凜はあくまでも微笑んで冗談っぽく返した。
先輩だということももちろん大きいのだが、凜の性格上、突き放すような態度はとれないのだ。

「どんなことを言っても信じてもらえないみたいだね」

エレベーターが到着する。

乗っていた人が降り終え、凜は佐竹より先に乗り込んだ。
佐竹は凜を追って乗り込み、ボタンの前に立つ。

なかなか人が乗ってこない。

――2人きりになるかもしれない。
ふとそんな考えが凜の頭を過る。


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