晴れの日にコンコンと――

天気雨のち晴れ

 昼休憩を少し過ぎて会社に戻った北木と絵里は、いつもの日常に戻り仕事をはじめる。


 絵里のデスクに置かれた狐のぬいぐるみが動いて話すことはもうない。



――夢でも見てたみたい。



 狐のぬいぐるみをペンでつついて寂しげに笑い北木の座るデスクに視線を向けと、北木と目が合った。


 北木は立ち上がるとデスクにあるファイルを片手に持ち絵里のもとへ歩いてくる。



「紺野君、申し訳ないが今日少し残ってもらえないだろうか?」



 手に持っていたファイルを絵里が受け取ると、北木はデスクにある狐のぬいぐるみを一瞥して微笑む。



――いつもの日常に戻っただけよね。



 絵里がそっけなく「分かりました」と返事をすると北木は頷いて自分のデスクに帰って行く。



「やっぱりクズハが課長だったほうが良かったかも」



 溜息をついて受け取ったファイルを開いていると、真紀が声を掛けてきた。


 椅子を回して書類を手に困った顔をしている真紀の方に向きを変え要件を聞く。



「済みません、ここってどんな処理すればいいか分からなくって……教えてください」


「それ最近変更になったやつよね……」



 席を立って真紀のデスクに行きパソコン上でそのまま処理方法を教えると、すぐに理解できたようで真紀にお礼を言われる。



「ありがとうございます! それはそうと、絵里先輩また残業ですか?」


「自分の仕事も少し押しているから、どっちみち残業かな」


「お昼後も北木課長と一緒に戻って来てましたけど、何かありました?」


「ないない! 戻る時にたまたま一緒になっただけ。ほら、仕事しないと真紀ちゃんも残業になるよ」


「気のせいかぁ。北木課長の機嫌がいつもよりいい気がしたんだけどな……」



 呟きながら思案顔を見せる真紀を笑顔でねじ伏せて自分のデスクに戻り仕事を始める。



――何もない気のせいよ。私がちょっと北木課長を意識してるだけだもん



 とんでもなく不思議なことに巻き込まれ、北木の頼りは偶然居合わせた絵里だった。


 その関係性が崩れた今、北木が絵里に対して特別なものを感じることなど無いのだと絵里は自分に言い聞かせる。



――2、3日すれば忘れるわ。特別だったことに勘違いしているだけ!



 絵里は大きく伸びをして積まれたファイルの処理を黙々と続けた。

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