真夜中の相談屋敷

『…?何をボソボソ言ってるんだい?』

「…わたしが言ったこと、聞こえてた…?」

『小声は聞こえなかったよ』

「……」

幽霊の女性はもう一度少女を見下ろした。

『お前さん…。なんでこの家に居るんだい?』

「それは…、お父さんが……」

少女は言葉を詰まらせた。

『…まぁいい。それより…』

幽霊の女性はある一点を見つめる。

その一点とは、床に置かれた少女が読んでいた本だ。

『その本…、“児のそら寝”だね』

「ちごの…そらね…?」

今まであまり笑わなかった幽霊の女性が少しだけ微笑んだ。

『それは古文で書かれているの。宇治拾遺物語のひとつでね…』

「…こぶん?うじしゅうい…ものがたり…?」

少女の分からない言葉を、幽霊の女性はどこか楽しそうに言っていく。

『こんなこと、お前さんには分からないわね』

幽霊の女性はふっと自分に呆れたように笑った後、少女に背を向けて、また机のところに戻ろうと少し前に進んだ。

「………おばあ…ちゃん…」


この家は自分を受け入れてくれない。

ひとりは寂しい。


この人も、幽霊になってからずっとひとりだったんじゃないかと思う少女。


「…っ、おばあちゃん!」

『…?』

幽霊の女性は少女の方を振り返る。

少女は本を抱えて立ち上がった。

「教えて!この本のこと!わたし、こぶんっていうの知りたい!」

少女は本を幽霊の女性に差し出す。

『お前さん…。私が怖いんじゃないのかね』

「全然怖くないよ!だっておばあちゃんだもん!」

少女はそう言った後、ニコッと笑って幽霊の女性を見た。

『……』

幽霊の女性は黙っている。

そして、少しだけ微笑んだ。


『おかしな子だね…』

「…!…エヘヘ…ッ…」


幽霊の女性は少女の目の前に来て、ゆっくりとしゃがみ込んだ。

『分かったよ。なら、いつでもここにおいで。でも、家の人達に見つからないようにね…』

「うん!」

『…お前さん、名前は?』

「舞だよ!小野寺 舞!」

『おや…、私の苗字と同じだね』

「だっておばあちゃんだもん!」

『…そうかい。可愛い孫だ』




これが、私とおばあちゃんとの出会いだった。




そしてこの日から、少女はおばあちゃんに古文を教えてもらうために、こっそりと蔵に通い続けた。

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