真夜中の相談屋敷

「ホームシック…とかならねぇの?その……、一応今までの家から離れたわけだし、急に新しい家に住むわけだし…」

「…慣れてる。それに、前の家であんまりいい思い出ないし…」

悪いことを聞いてしまったような気がする。

…うっ…。

舞はうつむいて目に手を当てている。

…まさか…。な、泣いて…。

大切な人の泣いている姿を見るのは嫌だ。

けど、それ以上に…、


…どうしていいのか分かんねぇ…!


ヤバい、ヤバいぞ。

…どうする…、どうする俺!

そんな時、ふと母さんの言葉が浮かぶ。

確か母さんは出かける際に、ケーキを買っておいたと言っていた。

…ケーキ!

俺は急いで食卓用テーブルの方へ向かう。

テーブルの上にはケーキの箱が置いてあった。

「ケーキあるけど…。食う?」

「ケーキ…」

…よし食いついた!

食いついたのはいいのだが、舞の頬に涙の痕がない。

泣いていたなら頬に涙の痕が残るはずだ。

「………泣いてたんじゃ…」

「…?」

「え」

「……あぁ…。さっきのは目が痒かったから、かいてただけ」

「え」

俺の早とちりかよ…。

…まぁ、泣いてなかっただけ良かったか。

俺が舞を手招きすると舞は俺のそばに来た。

箱の中にはショートサイズのケーキが家族分あり、ショートケーキ、ティラミス、タルト、チーズケーキの4個が入っていた。

「どれがいい?」

「……」

「どうした?」

「あ…。私、余ったのでいい」

「え…」

「先に葉月選んでよ。あとおばさん達も好きなの選んでほしいし…」


…こいつ…。



向こうの家で肩身の狭い思いをしていたのではないだろうか。

自分の好きなようにできなかったのではないだろうか。

「…遠慮するな」

「え…?」

ケーキに視線を落として舞に話しかける。

「好きなようにすればいい。ここはもう舞の家だし、俺らは家族だし……」

「でも…」

ケーキから視線を離して舞の方に顔を向けると、舞は困ったような表情をしていた。



「兄貴の俺が言ってんだからそうしろ」



「…っ…」

舞は服の裾をギュッと握っている。


「舞?」



「……ありがとう…」



舞は嬉しそうに微笑んでいた。



「…ならさっさと選べよ」

「うんっ!じゃあ私ショートケーキ!」

「はぁ!?俺もそれがいいんだけど!」

「好きなの選んでいいって言ったじゃん!?」






『ほらほら!ケンカしないの!』

『…でも、ふたりには聞こえていないだろうけどな…』

…え…。



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