木蓮ひらり

蕾 /1

「なんだか木蓮、ぼんやりしてる」


サエと一緒に売店前の自販機でジュースを買いながら、あたしは言った。


「いつもあんな感じじゃない?」


サエはそう言うけれど、幼なじみのあたしには木蓮の「ぼんやり」の仕方がいつもとは違って見える。



普段の「ぼんやり」であれば、木蓮はたいてい景色を眺めていると思う。


だからあたしは「何見てるの」って訊く。


すると木蓮は「山が夏の色になったね」とか「朝顔に蕾がついたよ」とか、答えてくれる。



だけど今日、昼食後に木蓮が見つめていたのは何も書かれていない黒板だったから、あたしは何も訊かなかった。


家で何かあったのかと思ったからだ。


だけどよく考えてみれば、あたしは木蓮の家で何かが起こったときに、それを木蓮の表情から推察できたことはないのだった。


木蓮は家庭内のことでは動揺を見せない。


暴力を振るわれても、髪を切られても。


家庭の悩みを表に出さないことに慣れているのかも知れない。



じゃあ、今日の木蓮の「ぼんやり」は何だろう。


あたしとサエが教室に戻って来た今も、木蓮はさっきと同じ姿勢で黒板を見つめている。


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