木蓮ひらり

霜降 /1

秋が深まり、街は少しずつ賑わいを見せ始めた。

夜になると通りをそぞろ歩く湯治客の下駄の音があちらこちらから響いてくる。

酔っ払ったおじさんたちはたいてい、温泉街を歩いている女のひとを「ねえちゃん」と呼ぶ。

さっきもコンビニの帰りに「ねえちゃん」と呼びかけられた。

もちろん聞こえないふりをして通り過ぎる。

「ねえちゃん」などと呼んでいいのは十歩譲ってもそういうお店の中でだけだし、お金を払わないひとにその資格はない。

この街で生まれ育ったあたしは、そう思っている。



十月に入ってからお店が忙しくなってきて、あたしは開店準備その他を手伝うようになった。

平日はアルバイトのひとが出勤してくる十九時まで、忙しい週末は二十一時まで手伝う。

あたしはもう少し遅くまでやってもいいんだけれど、ママがそう決めた。

「遅い時間になるとたちの悪い酔っ払いが来たりするから」とママは言う。

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