木蓮ひらり

落椿 /2

白い花が激しい水の流れに翻弄されて渦に呑まれる。

あたしは為す術もなく立ち尽くしてそれを眺める。

花びらはばらばらと散りながら水底へ消えていく。



バスの中でうたた寝をして、寒気がして目が覚めた。

もうすぐS駅前に着く。

ヒデちゃんが帰ってくる。

恋人になる日。

ずっと待ち続けた日なのに、バスを降りて駅に向かう足が重かった。


改札口で少し待つと、ボストンを肩に掛けたヒデちゃんが現れた。

背の高いヒデちゃんは、人波に紛れることなく立っている。

ヒデちゃんは懐かしい焦げ茶色の瞳であたしを見つめた。

お茶しようと言うヒデちゃんに促されて、ブルームーンへ向かって歩く。

ブルームーンは初めてヒデちゃんから誘われて会ったあの日と同じく、明るく物悲しい音楽であたしたちを迎えた。

あたしたちは曖昧な表情のまま、お正月の過ごし方など、他愛もないことをぽつぽつと話した。

本当に話したいことを避けながら、時間を無為につぶした。

話すことがなくなって間が空いてしまったときに、ヒデちゃんが言った。


「康に聞いたよ」


あたしは黙って頷いた。


「木蓮さん、どうしてるの?」


今朝杉本くんにメールをした後、あたしは思いきって木蓮にお悔やみの言葉を送っていた。

木蓮からの返事はこうだ。


『ありがとう。

いろいろなことを立て直すのに、時間がかかりそうです。

これからのことが決まったら、また連絡します。』


一見淡々としたこの言葉にこもるだろう想いが、あたしの胸に細波を立てて、今もおさまらずにいる。

ヒデちゃんに一連の事を話した後、また話が途切れて、あたしたちは息苦しさから逃れるように店を出た。



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