木蓮ひらり

鳥雲 /2


三月に入って、暖かな日が訪れた。

日の光が明るくなってきたけれど、少ししたら寒の戻りがあるだろう。

ここは盆地になっていて、そうなるとまた霜が降りるほど冷え込むから油断がならない。

週間天気予報を見ながら、あたしはホワイトデーに近い日曜日のデートの計画を立てていた。

いつもはあたしがヒデちゃんの学校があるS市まで出向くんだけど、その日はヒデちゃんがこの町まで来てくれる。

あたしが生まれ育った町をゆっくり見てみたいと言ってくれたんだけど、どこに連れて行ったらいいのか考えあぐねている。

あたしにとっては何もない町だ。

大きなホテル旅館の中にはおしゃれなレストランもあるけれど、高校生が行くような雰囲気じゃないと思う。

小さい頃に遊んだ高台の公園、川沿いの遊歩道、どちらも桜の木がたくさん植えてあるけれど、当然まだひとつも咲いていなくて寂しい風景だ。


「どこに連れて行こうかなー」


思わず言葉が漏れて、キッチンに立っていた木蓮が振り返った。


「今度のデート?」

「そう。この町って遊ぶとこ何にもないじゃん」


あたしがそう言うと木蓮は少し首を傾げつつ、こたつの、あたしの斜め前に座った。


「いつも行く場所に行ったらいいんじゃない?学校からここまでの道とか、よく行くあのパン屋さん……」

「つまんなくない?」

「好きなひとがよく行くところって、行ってみたいんじゃない?」


木蓮はそう言ってちょっと微笑って目を伏せる。

そうだ、木蓮は去年の夏に杉本くんの町へ行ったんだった。

そして杉本くんは木蓮の目を通して自分の町を見直した。


「……そうだね」


それも楽しいかもしれない。

ヒデちゃんが前にここに来たときはうちの店でごはんを食べてすぐに帰ってしまったから、今度は外をたくさん見てもらおう。

あたしは新しい服を胸に当てて鏡の前に立ってみた。








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