木蓮ひらり

鳥雲 /5

ガーデニングショップ「あとりうむ」のレジの奥には倉庫兼休憩スペースがあって、あたしたちはそこで身なりを整え直した。


「ごめんな、タオルとかあんまり置いてなくてさ」

「あ、大丈夫です」


店長さんにそう応えて、自分のハンカチで濡れた髪や肩を拭いた。

店長さんと木蓮は仕事柄なのか自分のタオルを持っていて貸してくれようとしたけれど、遠慮した。

ヒデちゃんもポケットから出したハンカチで顔を拭っている。

店長さんはハナさんの頭を手ぬぐいでゴシゴシ擦った。

ハナさんはおとなしく、されるがままになっている。

店長さんはハナさんの身仕舞いを終えると、みんなを電気ストーブの前の丸椅子に座らせた。


「日曜出勤の時は、おれのおふくろにハナのことを頼むんだけど、おふくろ昨日腰を痛めて横になっててね。ハナ一人で家を抜け出して来たらしい」


長い髪から落ちる雫もそのままに、木蓮は放心したようにハナさん親子を見ていた。

店長さんがハナさんのお父さんだということを、あたしはもちろん、木蓮もたった今知ったのだった。

あたしは木蓮が手にしたタオルを取って肩に掛けてあげた。

木蓮はあたしを振り返り、はにかんだ顔で「ありがとう」と言った。


「家で留守番してろって言ったろ?」


店長さんは無表情でこっくりと頷くハナさんを奥の小さな和室に促し、テレビをつけた。

ハナさんが何かのテレビ番組を見始めたのを確認して店長さんはこちらに戻り、温かなお茶を入れてくれる。

木蓮が立ち上がって皆にお茶を配ってくれた。

ハナさんの前の座卓にも湯気の立つ茶碗が置かれたけれど、ハナさんは黙っていて、テレビ画面から目を離さない。

木蓮は羽織っていた濡れたチェックのシャツを「あとりうむ」のロゴの入ったブルゾンに替えて、静かにあたしたちの傍に戻った。

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