木蓮ひらり

木蓮 /1


「可愛い花だよね」

棚の上にある白いサクラソウを見つめる木蓮に声をかけた。

あたしに言われて、木蓮は、自分が花をみて立ち止まっていることに気がついたようだった。


「……そうね」


その花のそばで木蓮はたびたびそうなってるよ。

あえて軽くそう言ってみたい気がするけれど、あたしは抑えている。

あたしがもらったピンクのサクラソウは自分の部屋に飾ってあるけど、木蓮のものは茶の間に置かれた。

朝晩、木蓮が水をあげ肥料も足して丹精している。

木蓮はキッチンに行き、お湯を沸かした。


「何か飲む?」

「木蓮が飲むなら、同じのを」


淹れてもらった紅茶は、あたしの方にだけ砂糖とミルクがたっぷり入っている。

お礼を言って口に含むと、予想通りの優しい甘さだ。


「春休みはお母さんのところで過ごすの?」

「ううん、ずっとアルバイトの予定。ここんちには申し訳ないけど」

「うちは構わないけどさ。聡子さんは大丈夫なの?」

「うん、元気そう。来月あたり用事でこっちに来るらしいから、その時に会うの」


木蓮は両手を温めるようにカップを持って、お茶をひと口飲んだ。


「トモは三田くんのところに遊びに行くんでしょう?」

「うん」

「結構遠いよね」

「日帰りきびしいかな。泊まりにしようかな……」


なんとなく言って、なんかきわどい話になるかもと思って黙り込む。

木蓮の顔をそっと見ると、平然としていて、あたしの自意識過剰なんだなと思って、かえって煽りたくなってしまう。


「こないだヒデちゃんとの別れ際、バスターミナルに他に人がいなかったから、あたしからぎゅうぎゅう抱きついちゃった」

「……うん」


木蓮は穏やかな顔で紅茶を飲み続けている。


「……驚かないね」

「だって、見てたもの」

「えっ」

「あとりうむの帰りに通りかかって、見えちゃった」


あたしはぽかんとしてしまった。


「誰もいないと思って油断しちゃだめだよ」


木蓮はそう言って悪戯っぽく微笑んだ。


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