木蓮ひらり

そんなことないよ。

そう言おうとした時、階段を上ってくる足音が聞こえた。ママだ。


「二人とも、もう帰ってたんだ……どうしたの?」


ママの元気な表情が、木蓮の様子を見て少し曇る。

木蓮は微かな笑顔を作って「おかえりなさい」と言った。

ママがもう一度、どうしたのって訊いて、木蓮が、何でもないです、と答えて、ママは小さく息をつき、気を取り直すように明るい声を出した。


「出がけに宅配が届いて、店の方に置いといたの。はい、木蓮ちゃんに」


ママは買い物袋と一緒に携えていた小さな包みをこたつの上に置いた。

差し出し人は聡子さんだ。

木蓮は包みをそっと開いた。


「わ、可愛い」


あたしは思わず声を上げる。

入っていたのは手編みの白い帽子だった。

コットンの糸で出来ていて、繊細な花のモチーフが留められている。


「……お母さん、また編み物、始めたんだ……」


木蓮は贈り物を大切そうに膝に置いて、添えられていた手紙を黙読している。

帽子は少し早めの木蓮への誕生日プレゼントだった。


「木蓮ちゃんはまだ十六歳なんだねえ」


あたしは来月、十八になる。

こんな風に考えると、同学年なのにずいぶん差があるような気がしてくる。

手紙を読み終えた木蓮は、何かを噛み締めるように一度頷いた。


「……あたしと聡子さんはね」


ママが話し始める。


「あたしたちは、昔から約束してるの。何があっても子どもを守ろうってね。家族のことも商売のこともいろいろあったけど、それだけは忘れないように、時々二人で確認し合うのよ」


若い頃のママたちが励まし合う姿を想って、あたしは何だか不思議な感じがした。

あたしの心が、小さな頃の風景の中に飛んで行く。


木蓮と通った保育園。

よく遊んだ公園。

うちの家族と木蓮の家族で出かけた海。


おばあちゃん。


……パパ。



「……だけどあんたたちも、じきに大人になるんだねえ…」


ママはそう言うと、嬉しそうに、淋しそうに、笑みを深くした。



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