木蓮ひらり

あの日 /3

中二の春のあの日のことを、あたしは今でも覚えている。




うちから中学校へ通じる道の途中に木蓮の家はある。


だから、中学時代の三年間は、あたしは木蓮と二人で登校していた。





あの日あたしはいつものように、窓の下から木蓮を呼んだ。



朝はインターフォンを使わないようにしている。


木蓮の両親は昼近くまで寝ているからだ。


この辺りではそういう家はめずらしくない。





木蓮は「おはよう。ちょっと待ってね」と言ったと思う。



そしていつもより出てくるのが遅かったと思う。




おさげ髪の木蓮がやっと出てきて、あたしは「遅いよ」なんて文句を言いながら歩き出した。






歩き始めて間もなく「ムーランルージュ」の重い扉が開く音がして、あたしは振り返った。




木蓮のお父さんが立っていた。



襟元をくつろげたよれよれのシャツを着ていて、赤黒い顔で目を血走らせているのが遠目にもわかった。


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