好きには、なれない 【完】

春の椿事 /直感



美しい模様が施された鋳造の門扉が、左右に開かれていく。


門扉の両側にある支柱に埋め込まれたスピーカーからは、


『星野様、お待ちしておりました。どうぞお入りください』


宮川さんの声が聴こえてきた。


わたしのウロウロぶりは、警備室でしっかりモニタリングされていたみたい。


そういうわけで ――


幸か不幸か、わたしが腹をくくる前に道は開けてしまった。


もうこうなったら、行くしかないじゃない……


「お邪魔します」


がっくりとうなだれて、わたしは藤原邸の敷地内へ。


手入れの行き届いた芝生を数十メートルも歩けば、


「いらっしゃいませ」


噴水の前に宮川さんが立っていた。


待ち構えていた、という方が正しいかも。


わたしはバスケットを手渡す。


「これ、良かったら皆さんでどうぞ」


バスケットの中身は、基樹が好きなドライフルーツをたっぷり使ったパウンドケーキ。


云うまでもないけど、わたしの手作りではない。


星野家の料理人にお願いして、朝1番に焼き上げてもらったものだ。


「お心遣いありがとうございます」


宮川さんはバスケットを片腕にさげ、


「どうぞこちらへ」


わたしを邸宅へと案内する。



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