世界はキミのもの《完》

第15話 優しさと悪意



「伊織様!」

「その呼び方はやめろと言っただろう、咲紀」

「でも伊織様は次期当主様なんでしょう?」

「お前には関係ない」

「あ……そうですよね。私みたいな者には関係ありませんよね。出過ぎた発言を」

「違う!そうじゃない!お前には妙な遠慮をされたくないという意味だ」

「え?……ふふ、お優しいんですね」


 一一眠っている彼女を前に思い出すのは、もう随分と昔のことのように思える優しい記憶。


 違う。

 俺は優しくなんかない。

 見ていて痛々しいくらいに誰よりも優しいのは、お前の方だろう……?





 第15話『優しさと意』








 体が鉛のように重たい。

 私、どうしたんだっけ?


 頭を左右に動かすと首元に鋭い痛みが走る。

 起き上がろうにも体が言うことを聞かず、目を開けたまま布団の中で思考を巡らせた。


 鬼熊の里に連れて来られて、牢屋みたいな所に閉じ込められて。

 逃げようとしたら月早伊織に見つかってそれで一一。


「……っ」


 最初は寝ぼけていた頭も、出来事を思い出すうちにどんどんクリアになっていった。

 懐刀で首を切られた。そのことを鮮明に思い出した瞬間、体が震えた。


 一一でも私生きてる?


 その時、部屋の外から足音が聞こえてきて私は咄嗟に目を瞑って寝たふりを決め込んだ。

 スッと障子が開く。

 そのまま誰か入ってきたようだけど、その人は何も喋らないから誰か分からない。


 布を水に浸して絞るような音が聞こえたかと思えば、次の瞬間には私の額に冷たい布が置かれたのが分かった。

 思わず声を出しそうになったけど何とか堪えた。


 そしてその後は暫く何の物音もしない沈黙が続く。



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