世界はキミのもの《完》



 俺は本当は誰よりも弱い。

 お前はその弱さを知り、理解し、受け入れてくれた。

 以前水樹にそれは恋愛感情か?と命知らずな質問をされたことを思い出す。


 …………妹を愛しいと感じて何が悪い。


 あのときのことを考えて少し眉根を寄せていると、不意に眠気が襲ってきた。

 そういえば最近は休むこともままならなかった。最後に眠ったのはいつだったか……。

 水樹には寝ろ寝ろと散々言われていたがそんな気分じゃなかった。


 自然の重力に従い、瞼が重たくなっていく。

 確かに今、優しい風が頬を撫でた気がした。




――――…

――…




 ふと、穏やかで優しい温もりを頬に感じた。

 眠気眼のまま薄く目を開ける。


 何だろうか。

 だが自分はこの感覚を知っている。確かに懐かしいと感じる。


「ふふ、お疲れなのね」

「…………さ、き?」

「!」


 瞼を完全に開けても目の前がぼやけてすぐには焦点が合わない。


 ああ俺は白昼夢を見ているのだろうか。

 そうならば、なんて幸福な夢だろう。


 だって彼女が俺の頬を人差し指でつんつん突いて微笑んでいる。

 俺が起きてイタズラがバレたかのように驚いた表情をするところも、何も変わらない。


「あ、お、おはようございます伊織様」

「……」

「あの、伊織様?」


 そうだ、彼女は美しい声をしていた。

 鬼熊では珍しい美しい透き通るような桃色の瞳をしていた。

 戸惑っているときは首を無意識に傾げる癖があった。


「咲紀……」

「はい、何でしょう?」


 急に名前を呼ばれたことに緊張したのか、肩が微かに上げられる。


 夢ではない。

 俺は悪夢から目覚めたのだ。


 ああこの5年越しの再会を何と称すればいいだろう。



「一一様付けはやめろと言っただろう?」


 強張った表情が柔らかくなるのが分かった。














 その頃、門の前にひとりの男がいた。


(何?通行許可書?そんなもの持ってないよ。は?持ってなきゃ入れない?知らないよそんなこと。じゃあ今くれればいいよ。え?無理だって?何だよ君使えないなぁ……。ん?ここに来た目的?俺はね、俺の愛しい人と有能な部下たちを取り戻しに来たんだよ)



《第22話 完》




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