世界はキミのもの《完》



 けれど咲紀は首を横に振る。


「いえ伊織さん、それはまた別の話になります」

「いや何も変わらない。誰が何と言おうとお前は俺の妹だ。もう誰にも否定などさせない」


 一一ああそうか。

 あの日から5年が経ち、彼女の回りを囲う世界は大きく変化した。

 女というだけで月早で蔑まれてきた以前とは何もかもが違う。


「さっき聞きました。伊織さんが当主になられたんですよね」

「ああ。だからこれからはお前は何も気にしなくていい。何にも蔑まれる必要はないのだ。もしお前を傷つける者がいたなら、俺がそいつをこの里から永遠に追放してやる。だから咲紀……」


 出雲の言った通り。

 その瞬間、もう戦には発展しないと感じた。


「これからは幸せになれ」


 だって彼の望むことはただそれだけなのだから。


「私の幸せは伊織さん葵さん水樹さん、それと、この里に住む皆さんと穏やかに暮らすことです。それが叶うのならそれ以上は何も望みません」


 簡単なことのようだけど、それは今までは決して叶うことのない願いだった。

 人が当たり前に持つ日常が彼女にとってはこれ以上にない幸福だなんて。


 運命を憎みたくなる気持ちも分かった。

 だけど彼はようやく切り開いたんだ。


「だから伊織さん。復讐なんて、戦争なんてやめてください。私は誰も恨んではいません」

「強がる必要はないのだ咲紀。お前は匣森の前当主にやられたのだろう?そのせいで5年もの間、意識がないままだったのだ」

「いいえそれは違うんです」

「違う?」


 その言葉には部屋にいた全員が驚きを隠せなかった。

 だってそれってつまり……。


「あの方はお優しい方でした。私は……私を刺したのは鬼熊の者でしたから」


 伊織が目を見開く。

 こんなに驚きの感情を露にする彼を見るのは初めてだ。


「かなり過激な思想家みたいでしたから、やはり月早に女の私が生まれ、生きていることが許せなかったのでしょう。あの戦に乗じて私を殺そうと企てていたんだと思います」

「その者の特徴を言え。すぐにそいつを」

「その必要はありません。さっき水樹さんにこの5年の間に亡くなった方の名前を全て教えていただきましたが、その中にその人もいましたから」


 となると、彼女はその人の名前を知っていたということになる。


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