世界はキミのもの《完》

第9話 好事、魔多し



 日和の誘拐騒動から数日経ったある日。ひとりの男が神狼の里へと続く森を歩いていた。

 男の名は遠野時雨(トオノシグレ)。正真正銘本物の人間。





 第9話『好事、多し』








「流」

「はい。分かっております」


 何の前触れもなく突然琉狼が流の名を呼んだ。だけど彼はさして驚く様子もなく、むしろ当然のように答える。

 何が〝はい〟なのか分からない私は頭にハテナを浮かべた。


「何か、あったの?」

「ただの迷い犬。いや……鼠かな」

「ネズミ?」


 そうこう話しているうちに流はもういなくなっていた。


「ひよは気にしなくていいよ」

「そうは言っても、気になるものは気になるの」

「俺にもそれくらい興味持ってくれたら嬉しいのになぁ」


 これでも結構持ってるつもりなんですが!

 うまくはぐらかされた結果、これ以上言及はしなかった。


「ひよ、手首見せて」


 言われた通り、怖ず怖ずと着物を捲ると、琉狼はニコリと笑った。


「大分痕消えてきたね。俺が毎日舐めてあげたお陰かな?」


 そう言って私の手の甲に優しくキスを落とす。この場面だけを切り抜けば、さながら王子様のよう。


「私の治癒力のお陰だもん」


 すっかり薄くなった痕を尚も舐めようとするものだから、私は慌てて手を下げた。

 着物を元に戻し、息をつく。


「ねぇ琉狼」

「外出なら当分ダメだよ」

「お願い!すぐに帰ってくるから」

「昨日も聞いたけど河原になんて行ってどうするの?」

「それは……」


 言えない。

 元老に誘拐チックなことをされた日、琉狼にプレゼントを買って。しかもそれをおそらく河原で無くしてしまったなんて。

 だから出来れば早く探しに行きたいなんて絶対言えない。



0
  • しおりをはさむ
  • 275
  • 915
/ 417ページ
このページを編集する