妖精は月と舞う-crescent-《完》

秘密の庭



「私たち、城にいたはずよね」


 光が消え、視界が晴れる。


 真っ白な空間に扉が二つだけ。

 隣にアストルがいなければそれこそ心細くなりそうな空間だった。


「女王が道を開いたんだろう」

「でもそれならどうして扉が二つも」

「一つは当たりでもう一つは外れと考えるのが妥当だろうな」

「ここまで来て外れだなんてそんな!」


『案ずるな。辿り着く先は同じだ』


 どこからか女王の声がこだました。

 見渡しても姿は見えない。どこに。いや、どこから見ているのか。


「それならどうして扉が二つあるのですか?どちらか一つを選べと言うことでしょうか」

『二人一緒の扉に入っては面白味がないだろう。一つの扉に一人ずつだ。もし同じ方に二人が入れば庭へ辿り着くどころかその空間から出ることは二度と叶わないだろう』


 ハッとするシーナとは対照的に、アストルは舌打ちする。


「それはとてもふざけた提案をされるな、女王陛下」

『提案ではない。事実だ』


 あっけらかんとした女王の言葉に食い下がりそうなアストルをシーナが止めた。


「アストル、右と左どっちが良い?」

「お前な、中がどうなってるか分からないんだぞ」

「辿り着く先が同じなら大丈夫よ。それにここで立ち止まっていてもきっと陛下のお考えは変わらないわ」

「……」

「私たち、もう先へ進むしかないのよ」

「……何が起こるか分からない。何か起きたとしても俺は守ってやれないんだぞ」

「ええ、そうね」


 こんな状況なのに彼がとても優しくて優しくて、思わず頬が緩んでしまう。心が暖かくなる。

 そんなアストルの優しさを知っているからこそ、あの時思ったことがある。


「ねぇ。城への階段を上るとき、最初に私一人で行くって言ったのを覚えてる?」

「ああ。結局お前は文句を言わなかったな」


〝違うの、私。こんなの子供じみているわよね。ごめんなさい〟

〝俺が勝手に動くから怒ったんだろ。当然だ。だから文句を聞くと言った〟

〝いいえ、そうじゃないのよ。そうじゃなくて。ただ……〟



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