妖精は月と舞う-crescent-《完》



「ずっと思っていたの。いつもあなたは私を助けてくれて色々なことから守ってくれるわ。でもこのままじゃいつか呆れられるんじゃないかって。だから私も役に立って、あなたの隣に並びたいと思ったの」

「違う!!あの時は、」

「え?」

「……っ、お前に呆れることなんてしょっちゅうだ。そのお人好しはどうせ死んでも治らないんだろうな。さっきの番犬とのやりとりだってそうだ。わざわざ言われなくても分かってるだろ」

「そうね」


 眉を下げて悲しげに微笑むシーナに心臓の辺りが痛んだ。


「別にいい、お前はそれでいい。今のままでいればいい。そうやってせいぜい俺を呆れさせて、最後にはいつもみたいに丸く収めればいい。だから妙な事を考えるのはやめろ」


 その存在に釣り合いたいと思った。

 まさかあのとき互いに同じことを思っていたなんて、夢にも思わない。


「アストル……」

『シーナ、役に立ちたいというのならお前は左を行くといい』

「え?」

『左だ』

「……分かりました。アストル、あなたは右を行って。イルシオンの元でまた会いましょう」

「待っ」

「それでも私は今よりもっと強くなりたいと思うのよ」


 彼女を左へ行かせてはならない。そんな警鐘がアストルの頭に響く。

 左の扉に手をかけて深く息を吐いているシーナの腕を掴む。そのまま無理矢理引き剥がしてシーナの手が離れた瞬間に、アストルは己の手で扉を開いた。


「リリー、また後で」


 その瞬間、ここへ来たときと同じようにアストルは光に包まれて消えてしまった。

 残されたシーナは唖然としてから、ようやく何が起きたのかを理解した。


「……嘘、嘘、待って」

『アーシーが左を行ったか。仕方ない。ならばお前は右を行け』

「女王陛下!一体この先には何があると言うのですか!?アストルが行った扉の向こうには何が」

『案ずるな。アーシーなら無事に辿り着けるだろうよ。アーシーならな』

「っ、本当ですか」

『嘘などつかん。さぁ、アーシーに既に遅れをとっているぞ。お前も早く行くが良い』


 進まなければ、辿り着けない。


「……分かりました。女王陛下、イルシオンを一輪頂戴致します」


 アストルに強く掴まれた右手は少しだけ赤くなっていた。その痕を一度だけ撫で、右の扉を開ける。

 その瞬間シーナが包まれたのは光ではなく、暗闇だった。




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