妖精は月と舞う-crescent-《完》

メメント・モリ

「これはどういうことだ!!」


 部屋中に怒号が響く。

 国を統べる妖精女王ティターニアは、涼しい顔でそれを聞いていた。


「イルシオンは妖精には触れられんと最初に言ったはずだ。シーナは人間にしては妖精としての気が多い。だから私が無理だと言ったのを試したいと申し出たのはシーナだ。当然こうなる可能性もあった」


 そうだ。女王の言葉は正しい。

 それでもぶつけずにはいられなかった。


「……あの扉は結局何だったんだ」

「右は今一番思う相手の苦しみの過去の扉。左は今一番思う相手の幸せの過去の扉。だからお前が言った〝どちらを選んでも同じ〟というのは間違いだ」


 今一番、思う相手。


「っ、それでもリリーが左へ行けばあんな目には遭わなかったはずだ!」

「そうだ。だから私はシーナに左へ行けと言ったのだ。それをお前がとんだ勘違いをして左を選んでしまった」


 女王は笑う。

 やはり嵌められていたのだ。


「だが左の扉はお前にとって得があっただろう。まぁ得はお前だけではないがな」

「どういう意味だ」

「いや、こちらの話よ」


 この妖精は答える気など毛頭ないくせに意味深長に言葉を吐く。

 あの時もそうだった。


〝果たしてそれだけだろうか。もしや来るのが二度目だからだろうか〟

〝!!どういう意味だ!?〟


 彼女について聞いた時のことだ。

 女王は確実に何かを知っていて、そして意図的に隠している。

 もしそれを本当に隠したいのなら隠しているということ自体を相手に悟らせてはならないのに、この妖精はそれをしない。

 だから女王が情報をちらつかせるのは単にこちらの反応を楽しんでいるだけなのだろう。

 そう分かっていても、そこに答えがあるというのなら手を伸ばさざるを得ない。

 その様を女王は滑稽と笑うのだ。



「どこへ行く」


 問いかけてくる女王には一瞥もくれずにアストルは背を向けたまま扉を開けた。それを不敬だと喚く妖精は今ここにはいない。

 だがそれとほぼ同時にすれ違うようにしてその妖精が部屋に入ってきた。

 一瞬視線が重なったが、セルキーは何も反応せずに真っ直ぐ女王の元へ跪いた。


「陛下、処置は終わりました。あとはエルフの癒しの力でなんとか……」


 その報告を背中越しに聞き、アストルは一度だけ深く息を吐き出した。

 そのまま部屋を出て、彼女がいる部屋へと向かった。


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