妖精は月と舞う-crescent-《完》



 妖精はたまに見る。

 だがアリソンはそれらに対する知識はほとんど持っていなかった。


「はぁ、なんだってこんな錆色にちょっかい出すんだよ。妖精は金とかキラキラした色が好きなんだろ」

「コボルトは鉱物が好きなんだ。だから茶色も好きなんじゃない?」

「へぇ」

「まぁあれはイタズラ好きだけど善良な妖精だ。ブラウニーやホブゴブリンのように家事もするし、棲み着いた家に幸運をもたらしてくれる。ただ乱暴に扱って怒らせると不幸をもたらすから気を付けた方がいい」

「うっわ、面倒くさ」

「普通は報酬はミルクでいいんだけど、ブドウの味を覚えたなら次からそっちを欲しがるだろ。毎朝皿の上にブドウを置いて、南の方角にある窓辺にそれを置くといい」

「あんた、やけに詳しいんだな。もしかして妖精関係の仕事か?」

「まぁ……そんなところ」


 妖精関係と言えば妖精博士フェアリードクター妖精狩人フェアリーハンターか。だが天下のフェアリー協会の人間なら、昼間からこんな田舎の小さな汚い酒場に入り浸るようなことはしないだろう、とアリソンは思う。

 とすると自称フェアリーハンターか。民間でそうやって荒稼ぎする男はこの店の常連にも多い。


 己の推測に満足していると、男はジョッキのビールを一気に煽った。


「あーーやっぱりアリソンの入れてくれた酒が一番うまい!」

「そう思うなら料金2倍払え」

「これでも貧乏人なんだからやめてよね。ぼったくりバーだって言いふらすよ。いいのかな?まぁそれで客が減ってアリソンが俺だけを見てくれるなら万々歳なわけだけど」

「チッ、飲んだなら早く帰りな!」

「待って追加注文!今度はブドウ酒で」

「……レヴィ、あんたそれ飲んだら本当に帰れよ」


 空になったジョッキになみなみと注文のブドウ酒を注ぐ。

 その様子をニコニコと見守る男は、誰がどう見てもこの酒場のつれない看板娘に恋をしていた。


 一一だが真実は。



「はいブドウ酒お待たせ」

「ありがとう。いただくよ、アリソン」


 その笑顔に思わず毒気を抜かれてしまい、アリソンは絆されないように溜め息を吐いた。




  • しおりをはさむ
  • 4209
  • 965
/ 339ページ
このページを編集する