妖精は月と舞う-crescent-《完》

幻の花



「これが語ることが出来る俺の全てだ」


 全てを語り終えたセルキーはわずかに目を伏せ、決してシーナを見ようとはしなかった。

 それはただひとえにシーナの反応を見るのが怖かったから。

 だがシーナはそのことに気づかない。シーナ自身もまた彼を見ることができなかったから。

 その間に沈黙が続き、空気は重い。それなのに女王は素知らぬ顔をして口元にわずかに笑みを浮かべるだけ。

 隅に控えるエルフもまた先に真実を聞いていたため動揺してはいなかった。



「リリー」


 その長い沈黙を破ったのはアストルだった。

 この件に関してはアストルは完全に関係のない第三者だ。だからこそ不躾に沈黙を破ることができた。


「おいリリー」


 名前を二度呼んだときにようやくシーナはハッと顔を上げた。今まで一度も見せたことがないような顔をして。


「っ、あ、ごめんなさい。少し、混乱していて。ごめんなさい、ごめんなさい」


 何度も謝って彼女は耐えきれずに謁見の間を飛び出した。

 その後を弾かれるようにしてセルキーが追っていった。もしこれで追わなければアストルはセルキーに対して深く失望するところだった。


「お前は行かなくていいのか?」


 女王は静かに問う。


「今あいつに必要なのは俺の言葉じゃない」


 本当は彼女がこちらを見たとき抱き締めたかった。それで何も考えずに済むようにしてやりたかった。そうすればその瞬間だけは楽になれる。だがそれではなんの解決にもならないということをもう知っている。

 そもそもアストルには女王がセルキーにその話をさせた意図が分からなかった。本当に女王の言葉通りに受け取っても良いものなのか。

 彼女を混乱させて、それでどうしようというのか。


「本当に変わったアーシーよ」

「どうとでも言えばいい」

「あいつとて似たようなものだった。オスのセルキーなど女の穴にしか興味のないどうしようもないやつらと思っていたが」


 語られた内容はアストル自身にとってもかなりの衝撃だったのだ。ならば彼女はどれほどまでに。


 …………父親か。



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