妖精は月と舞う-crescent-《完》

その花をあなたに



 あまりの眩しさにシーナは目を細めた。

 頭上にあるのは月ではなく太陽。


「アストル!」

「ああ。戻ったな」


 嬉しくて思わず名前を呼ぶとアストルは微笑んだ。

 やっと人間の国に戻ってきた。

 妖精国には昼と夜しかなく、しかもそれらも女王によって気紛れに変えられてしまう為こちらと違って時間という感覚があまりない。だからシーナ達にはあちらでどれほどの日数を過ごしたのか正確には分からなかった。


「我は主の元へ戻る。お前達は城へ行け」

「いろいろとありがとうございました」

「礼を言われることをした覚えはない。我は我がしたいようにしているだけだ」

「それでも、ありがとうございました」


 頭を下げている間にエルフは消えていた。

 そうだ、エルフは空間転移ができる。フェアリーリングの行き先が王都でなくとも彼にはあまり関係なかったのではないだろうか。それなのに一緒に帰ったのはもしかして自分たちを見送ってくれたのだろうか一一なんて、シーナは自分に都合よく解釈して微笑んだ。

 そして二人は王都の中心に聳え立つウィーザルト・ヘルト城へと向かった。


「近くで見るとやっぱり大きいわね」

「散々向こうで馬鹿デカイ城を見てきただろうが」

「それとこれとは別よ!というか妖精国のものはことごとくスケールが違いすぎるのよ」


 あちらの城がまるで月のような銀一偏だったのに対し、こちらの城は黒く重厚感がある。

 近づくと城門に何人もの人間がいることに気がついた。


「あれは」


 門の傍にいるのは金糸の刺繍に彩られた紺の装いに身を包んだ男達。シーナには見覚えがなかったがアストルは彼らを何度か見たことがあった。


「国営騎士団だ。ただの城の警備にしては少し人数が多いな」

「あれが騎士団……。なんだか少し緊張するわね。だけどハンターの人はどこにいるのかしら」


 ミレイアが今どこにいるかは知らないが、とりあえず王城でミレイアの名前を出せば事情を知るハンターが先導してくれると言っていた。声を掛けろと言われたのはもちろん騎士団ではなくハンターにだ。

 だが探しても見当たらないのなら仕方がない。


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