妖精は月と舞う-crescent-《完》

終わらないソワレ



「お前、東の?」


 人の姿を真似ていても一目で分かった。

 燃えるような赤い髪と赤い瞳。この男はアストルと〝同じ種〟であると。


「アストル、この妖精」

「構うな行くぞ」

「っ」


 アストルに腕をとられた瞬間、爪が肌に食い込んでシーナは思わず顔をしかめた。アストルはそのことにすら気づいていない。

 彼がこんな風に焦りを隠せていないのはとても珍しくて、シーナは同時に息を呑む。


「お前やっぱり東のだな。まぁ待てよ、久し振りの再会だ」


 男は逃がすまいと二人の行く手を阻む。

 久し振りの再会一一。

 このアーシーはアストルのことを知っている。シーナの知らない過去のアストルのことを知っているのだ。


「人間と契約したって聞いたぞ」


 まさか知られているのかとシーナは目を見開く。それとは対照的にアストルは鋭く目を細めて目の前の男を睨んだ。


「黒髪の男らしいな」


 一一あれ?違う、私じゃないわ。


「まさかお前が飼い犬に成り下がるとはな。しかも本契約。アーシーと人間じゃほとんどが隷属契約ってのになるらしいがお前は違った。お前は人間よりも弱かった」

「……」

「なぁ東の、人間に一体どんな名を貰ったんだ?あいにく俺には想像がつかない。名を縛られて命令されるのはどんな気分なのか教えてくれよ」


 なんて下賤な笑み。

 違う。彼の過去を知りたいと願ったけれど、こんな風に暴いてほしかったわけじゃない。


「お前昔あれだけイキがってたくせに」

「今すぐその汚いものを吐く口を閉じて」

「……は?何お前」

「閉じなさい」

「おいリリー!!」


 庇うように前に出たシーナにアストルはどうしようもない焦燥に駆られた。己の後ろにいてくれなければいざというときに間に合わない。

 それは先程までの焦りとは違う焦り。

 彼女を〝失うかもしれない〟という焦りだった。


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