下田君に振り回される。【完】





更に戎君との距離を縮めると、机と戎君の間に紙が挟まっているのが目に入った。なんだ、と思えばその紙の右上の方に赤く‘29’という数字が書かれている。



「…(テストだ…)」



あの恐ろしい数学のテストだ。なぜ朝からこんなに重たい物を見ているのだろう。




「戎君…」

「……」

「戎さん…」

「……」

「戎様…」

「……おう」



その呼び名で返事をするとは、何様のつもりだ。



顔を僅かに上げた戎君はいつもより細い目でチラ、とあたしを見やる。あれ、なんか目の下が黒い。



「なあ、宮田…」

「うん」

「俺……無理」

「…うん?」

「…俺には、無理だ」

「…何が?」

「…分かんねぇ、」

「…自分自身が?」

「ちっげぇよ!俺のことは俺が一番分かってるわ!数学だよ!すーがく!」

「急に大声出さないでよ…!」



びっくりして今朝食べたもの口から溢れ出しそうになっちゃったじゃんか!



戎君は「悪い悪い」と軽い調子で謝罪したが、やっぱりちょっといつもと様子が違う。




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