心のキズにキスをする。【完】

7.笑われる女










「いたいた、サボり魔」

「…、…悪いとは思ってる」



いつもの食堂。窓際のソファ席。くすんだ赤のソファに座っていたあたしは、明日香の揶揄が孕んだ声に恐る恐る顔を上げた。



向かいのソファに座った明日香は、座るや否や細い足を組み、おまけに腕まで組み、目を細めてあたしを凝視する。




「感謝しな。結衣の感想も出して出席にしてあげたから」

「え…!」

「くっそ汚い字で、くっそテキトーに書いてあげたから」

「…めっちゃ不安」

「‘今日のセンセーの授業とっても面白かったでぇす。HAPPY!’」

「…それ出さない方がマシ…」



本気なのか冗談なのか、恐ろしいことを言う明日香。それで出席の扱いになったとしても、あたしは先生に目を付けられるに決まっている。


先生に向かってHAPPYはない。



まさか明日香があたしの出席まで補助してくれているとは思わなかったものの、大学に来る途中買った新作のチョコレートをおずおずと明日香に渡した。



「…感謝の気持ちです」

「チョコか。安っ」

「あは、」



朝ごはんの代わりにしようと思って自分のために買ったとは言えず、笑って誤魔化す。


明日香はあたしの笑みにうざったそうな顔をして、更に不審感を漂わせた。







「今朝、井槌さんからLINEが来た」



そして唐突に低いトーンの声を零す。




「え?井槌さんから?」

「結衣から全然LINEが返ってこなくて心配。何かあったか知らないかと」

「…そ、そうなんだ」

「結衣は昨日何をしていたんだ?」

「……え、っ」

「井槌さんにLINEを返せなかったことと、今日の遅刻は関係あるんか?」

「…こ、怖いよ、明日香」




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