心のキズにキスをする。【完】

10.泣かれる女




──────────……

──────…



午後5時前。





「はい、」

「わー。ありが、…」


ドン、とテーブルのど真ん中ではなく。浅倉君が座る方へ寄せて置いた1枚のお皿。その上に乗っている白い物。



スマホを弄っていた浅倉君は嬉々とした声を上げ、スマホの画面からテーブルに視線を移す。と、ピタリと浅倉君はおかしなタイミングで言葉を失くした。




「……、」

「どうぞ」

「…え、…吉村?」



箸を差し出すも、浅倉君は受け取ろうとはしない。呆然と目の前のそれ──────────豆腐1丁に目を奪われたままだ。半開きの口で浅倉君は恐る恐るこっちを見る。




「…これ、何?」

「豆腐」

「いや、それは分かるけどさ。…え、これだけ?」

「めんつゆかかってるよ」

「…そーゆー問題じゃ、」

「いらないならあたしが食べる」



ドン引きされるのは承知していた。よく豆腐だけ丸々出してくんなと、バカにされるのは予想していた。だから驚かない。傷付かない。でも浅倉君が食べないならあたしが食べる。



キラリ、と美しく輝いている豆腐に箸を刺そうとすれば、浅倉君に止められた。




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