心のキズにキスをする。【完】

14.抱き締められる女




──────────…



「ゆーい!」

「、」



俯いていた顔を上げた先に明日香と井槌さんの姿があった。風で動きを変える自分の毛先が影の中でフワフワと揺れているのを見つめていたあたしは重い腰を上げる。



「もー!いつの間にかいなくなってビックリしたよ!」

「…ごめん」



5分程前。明日香から<どこにいるの?>と連絡が来た。どうやらステージでのバンド演奏は終了したらしく、そこでようやくあたしがいないことに気付いたらしい。




「人多くて疲れちゃった?」



井槌さんが眉尻を下げて聞いてきたそれに苦笑いだけを浮かべて返せば、井槌さんは申し訳なさそうに口を横に結ぶ。




「超楽しかったですよね!井槌さん!」

「うん。まあ」

「動いたらお腹空いたので何か食べましょうよ!」



明日香の髪型が少し前に見たときより乱れていた。あれだけ激しくジャンプをしたり腕を振り回したりすれば、そりゃあこうなるだろう。



と、明日香の顔を見ていると井槌さんは「何食べたい?」とあたしを一瞥した。



クレープが食べたい、とずっと思っていた。もう1時間以上はそう思っている。この心身ともに感じるずっしりとした疲労を回復したくて甘いものが欲しい。






「あー…あたし団子食べたいです。さっき甘い系だったし」

「………、」




あたしの欲求は明日香の声に飲み込まれる。








──────『はっきり物が言えない吉村が言いたいことは、そういうことでしょ』








痛い、心が。



0
  • しおりをはさむ
  • 606
  • 14797
/ 474ページ
このページを編集する