心のキズにキスをする。【完】

17.愛される女










『俺だけど、』

「…。吉村です、」

『分かってるよ』



クスリと漏らされた微笑。開始5秒でジワジワと目に熱いものが込み上げてくるから困った。


唇を噛んでグっと感情を押し殺し、気を紛らせるために降りしきる雨に焦点を合わせる。






「何か用ですか」

『…吉村が電話かけ直して来ないから』

「…、は」



ダメだった。どうにもこうにも、あたしは浅倉君が話す声だけで泣いてしまいそうになる。


瞼を閉じて、顔を上に向けた。






『この前、急に電話切っただろ。様子変だったし、気になって電話したのに出ねーし』

「そ、っか」

『だから俺からまたかけてんの』

「…ごめん、」

『もう無視すんなよ』

「…っ…、」




目を閉じているのに、それを押し開ける勢いで涙が溜まってきた。目尻にも目頭にもジリジリと接近してくる。


こんなの時間の問題だ。
そのうちあたしはきっと泣き出す。号泣してしまう。


このまま浅倉君と電話を続けたら、また目がボンボンに腫れる。せっかく治ったばかりなのに。






『吉村さ、今どこにいんの?』



切ってしまおうか。この電話も。また強制終了させようか。
これ以上電話をするのは危険だ。






『ちょっと話あんだけど』

「……切ります」

『は?』

「もう寝るので、切ります…っ」

『いや、意味わか、』







プツ。ツーツーツーツー……。





「……、」






切ってしまった。















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