心のキズにキスをする。【完】

3.別れられない女

ひんやりと背筋が冷たい。ドクンドクン、と胸元が激しく存在を主張している。


アパートの前。あたしと浅倉壱成を見る、2つの目。付き合っている彼氏がそれはそれは怪訝な表情でこっちを見ていた。



「ゆ、いっ、?」



もう一度、存在を確かめるかのように慎重にあたしを呼ぶ彼に返事ができないのは、目の前に浅倉壱成がいるからかもしれない。



今付き合っている彼氏と、中学のとき付き合っていた彼。そして、自分。この状況、どうするべきか。


黙るあたしから顔を逸らし、ユラリ、と怠そうな二重で後ろに振り返った浅倉君。そこに佇む人物を捉えると「あー」と呑気な声色を零す。



「あんた。吉村の彼氏か」



こっちからは浅倉君の表情は見えない。だけど、その声はどこか挑発的。


グ、と彼の眉根が深く八の字になって、「っは、?」と戸惑いがちに肩を揺らした。




「お前誰だよ、結衣と何して、」

「うるせーな。カンケーねーだろ」

「なっ、」



初対面だとは思えない態度。聞いていたあたしまであんぐりと口を開けてしまうほどで、唖然と浅倉君を見据える。





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