プラスチックエリア【完】(オリジナルバージョン)

OFF /cyan1

「ねえ、いつも何聞いてるの?」


 彼女がオレに初めてかけた言葉だ。


日直だったオレは面倒だと思いながら日誌を書いていた。


 両耳から入ってくる音は、ドカドカうるさいパンクロックだった。

 学級日誌に突然影ができて顔をあげると、彼女が前の席に座って荷物を整理しながら振り向いた。


 彼女はオレの机で頬杖をついたかと思うと、片方の耳からイヤホンを外してそう笑った。
 オレの返事を待つことなくイヤホンを自分の耳に運んで軽く目を閉じる。


睫毛がわずかに揺れた彼女は綺麗な顔だと思った。


イヤホンの外れた片耳に、野球部がボールを打つ音や、吹奏楽部の揃わないそれぞれのパートの練習音が飛び込んでくる。



「へえ……すっごい意外! 青野くん。いい趣味してるね!」



日比野桜との初めての会話だった。


 彼女は自由な校風をいいことに、何個も耳に刺したピアスで午後の日差しにキラキラと虹を作った。
机の隅に虹の輪がいくつもできたのを見ながら思った。


青野くん


彼女がオレの名前を知っていた事のほうが意外だった。


「……どうも」

できるだけ表情を見せないように、長い前髪で顔を隠しながら俯いてそう答える。


「ねえ? これ、なんてバンド? 帰りにCDショップ寄って探してみようかな」

イヤホンを耳に挿したまま机の上の小さなミュージックプレイヤーをトントンと指先で触れた。


この学校には、高校生のクセに夜の仕事のおねえさんのようなツメをした女の子がいたりする。

そんな中で日比野桜の爪は綺麗に整えて磨かれているだけの桜貝のようなツメだった。

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