プラスチックエリア【完】(オリジナルバージョン)

「臣くん?」

桜が静かにオレを見上げた。

オレは桜をそっと抱き締めると、小さく深く呼吸をした。

「少しだけ……このままでいていい?」

「うん」

 ドクドクと血液が逆流してるんじゃないかというくらい心臓が鳴っていた。

 あの人が、オレに会いたいと言ってきたら……オレはどうするのだろうか?

 そんな事を考えながら、桜の甘い花のような優しい香りの首筋に顔を埋めた。

 会うのが怖いわけでも嫌な訳でもなかった、どんな顔をしてあえばいいのかわからないだけだった。


桜は、そっとオレの髪を撫でた。

肩に置いた額から桜の優しい香りとぬくもりが伝わってくる。

オレはそのままで桜に電話の内容を告げた。

桜はポンポンとオレの背中を叩いて小さく言う。


「そか」

「うん」

「大丈夫」

「うん」

「大丈夫だよ、臣くん」


 桜はゆっくりゆっくりオレの髪を撫でる。

根拠があってもなくても、桜が大丈夫には不思議な力がある。
本当に大丈夫な気がしてくるのだ。

オレはそのまま桜を抱きしめると大きく息をついてベッドに倒した。


「何もしないから、少しだけこうしてていい?」

「うん」

「時間……平気?」

「平気だよ」

「帰りたくないな」

「帰らなくてもいいけど?」

クスクスと笑いながら桜はチュっと小鳥のようなキスをして微笑んだ。


「……桜」

「うん?」

「あのさ、卒業したら……一緒に、暮らさない?」

「え」

「ジンちゃん。たぶん、美里ちゃんと暮らすと思う。もうすぐね、そんな話時々してるしね。ジンちゃんに、いつまでもオレのおもりさせたら気の毒だろ?」


桜はオレの髪をずっと撫でていた。


「いいよ……一緒に暮らそう、私もそうしたいな」

「え?」

「自分で言ったくせに、何ビックリしてんのよ」

「ん……いいよって言われると思わなかった」


桜はフフっと笑うと睫毛を伏せた。


「実家だけど、若い夫婦と住んでるのはつらいのよ?」

「……ああ。お察しします」

「あはは。でしょ? まぁ大学も高校と同じ敷地だしね。家を離れようにもね」

「だね」

「臣くん」

桜は体を少しだけ離してキスをする。


「お母さんの事……きっと大丈夫よ」

「……桜……はぁ、帰るね……帰らなきゃね」

「……なんかあったらすぐ電話して?」

「ん」

桜は何度も何度もオレの髪を優しく撫でた。

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