純情ロマンチックヒーロー【完】 

1恋は落ちるもの /1

 自転車を漕ぎだすと大きな風がビュウっとひとつ吹いた。


「おはようございます」

「おはよう。れんちゃん」


いつも同じ時間に同じ作業をしている近所のおじいさんは、時計よりも正確だと思いながら通りすぎる


 この町は、夏が来ると賑やかになる。

少し行くと海水浴が出来る海岸は、どこから来たんだろうというくらい人が沢山いて毎年の事なのに驚いたりする。

見慣れた景色と甘いバラの香りがする。


「いい香り!」

潮の香りとバラの香り……対比するような感じだけれど意外にもマッチしている。


海からの風が体をすり抜けて心地のいい空気を運んできた。


 海沿いの道を走るとパーゴラアーチが見えて、お花屋さんの店長のマサさんがテラコッタに植えられた草花の手入れをしていた。

風が運ぶバラの香りは、このバラ園からやってくる。

夏が始まる湿度が増すこの時期と、空気がピーンとする冬の一時期は特に香りを強く感じるように思った。


「おはようございます!」

「やあ、おはようさん」

店長のマサさんが豪快に笑った。

年齢不詳のマサさんは、政宗さんという厳つい名前のわりにノリはいつも軽い。

作業用のズボンの裾を長靴に入れて、少し汗がにじんだ白いTシャツの背中はうっすらと下の絵が透けて見えていた。

「マサさん、不動明王様が隠し絵みたいになってるよ」

「お? マジか? 汗かいたからな……配達に行く前に着替えなきゃな。れんちゃんもさぁ、もうちょっと驚いてよ」

「ふふふ」

「最初から驚いてくれなったもんなぁ……普通の女子高生は驚くんじゃないのかね? イマドキは違うんかね」

「あはは! 何が普通かは分からないけど……驚くほどの事でもないし」

「ははは! 舞子が自分に似てるって言うわけだよなぁ」


「え~舞子さんが? 嬉しい!」


マサさんの横にいた見慣れない男の子が私を見て大きく目を見開いた。

「!」

「?」

ものすごくびっくりされたようだ。

そんなにビッグボイスだったろうかと思いながらペコンと頭を下げると彼はそれを見てそっけない感じで頭を下げた。

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