好きと言って、キスをして。

小さな世界 /密やかに、甘やかに



「じゃあね」
「ほんとに、ありがとうございました」

アパートの前まで送ってくれた大久保さん。

「…よかった」
「え?」

「今の伊織ちゃんは、ちゃんと笑ってる」
「大久保さん…泣かせないで」

「はは。声かけた時、酷い顔だったもん」
「忘れてください!」

「忘れないよ」
「え…?」

「一生懸命恋してる顔、俺だけはちゃんと知ってるからね?」
「………」

誰にも打ち明けられず、
言葉にすることもできず閉じ込めてきた、恋。

それを否定もせず、受け入れてくれた人。

「大丈夫。誰にも言わない。だけどまた辛くなったら俺に聞かせて?友達として」

「なんで…そんなに優しくするの…」

「笑ってて欲しいから。好きだった子には、ずっと」

好きだった。

そう言ってくれたのも、
大久保さんの優しさだと思った。

「また、話聞いてください」
「もちろん。これからは避けずに、会社にも顔出すからさ」

あ、やっぱり避けられてた。

「カミングアウト。ですね」
「うん。今日からはほんとに友達。よろしく」
「よろしくお願いします、大久保さん」

最後に握手して、少し笑って、別れた。

彼の車を、見えなくなるまで見送った。

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