神楽さんと御堂研くん

プロローグ /神楽さん

高校1年生、6月に入った。
教室はじめじめとしていて嫌な空気。

入学して1回目の席替えで一番後ろの真ん中の列になった。
全ての席がよく見渡せて気に入っていた。

帰らねばと思いながらもなかなか提出物が終わらない。
ケラケラと少し騒がしい声も聞こえる。
だんだん人が帰っていく。


「はあ!!終わったー!」
やっと終わった!と手足を伸ばす男の子。
1人だと全然目立たない。違うクラスの同い年のいとこがかっこいいらしく、少し注目されていた。
色白で少し色素が薄くて細い線。
私の席からは左斜め、窓際の真ん中らへんの席で横顔が見える。綺麗だと思った。


「けんちゃん」
可愛らしい女の子が声をかけた。
「一緒に帰ろー」
椅子に座ったままにっこり笑いながら首をかしげる。
彼は変わらずニコニコと笑う。
「え?帰る?一緒に?」
「うん!」
「なんで?」
「いや、なんでって…一緒に帰りたいなーって…」
可愛らしくだめ?と聞く。
「ええー!いいよいいよ!帰ろー!」
「やった!」
「陵くん待たせちゃってるから断ってきてもいい?」
ごそごそとスマホを探る。
「え!いいよ、一緒で!!待っててもらったのに悪いし!」
「ほんとー?じゃーちょっと呼んでくる!」
わーいと、せかせか帰る準備をすると、鞄は教室に置いたまま出ていった。
ぱたぱたぱたと音が聞こえなくなって、女の子達が小さく笑った。

「けんちゃんいいねーー」
「さすが!従兄弟!!」
「一緒に帰れるかも!?」
「陵くんと帰れるとか、夢かよー」

その本人、けんちゃんは教室から離れたふりをして、トン、と扉にもたれていた。
…かくれんぼ?

「けんちゃんに勘違いされたらどうする?」
「やー、大丈夫でしょ?」
「こっちは告ってもないんだし、知らないふりすればよくない?」

なるほど、これを見越してのその行動か。
ちらっとこちらを見た"けんちゃん"と目が合ってしまった。
私気まずくて慌てて目を伏せた。


「私けんちゃん苦手」
「わかるー、ニヤニヤして気持ち悪いんだよねー」
「そこまで言ってないけど」

視野の端っこで小さく動く。
彼は座り込んで頬杖をつく。

「だって、陵くんと従兄弟じゃなきゃ絶対話さないタイプだし」
「どう考えても使われる側って感じ」
「わかるー」
「いいやつなんだけどねー」
「そうそう!いいやつなんだけどねー」

フォローしきれないフォローが入る。

「てか、呼びに行ったの?」
「電話すればよかったくない?」
「てか、遅くない?」
「しゃべってんじゃない?」
「誰か見に行くー?」

その言葉に私は顔を上げた。
え?見に行くの?そこにいるのに?鉢合わせだよ?
座り込んでいた彼は固まっていた。
さっきから微動だにせず、眠っているようにも見えた。

えー?帰ったかなー?と言いながら声をかけていた女の子が立ち上がる。
そのまま廊下を覗いて、固まった。
女の子の顔は見えない。
彼は女の子を見てにっこり笑った。
一言二言話すと女の子は慌てて教室へ戻り、カバンをひったくる。

「え!?なに!?」
「どうしたの!?」

女の子は何も言わずバタバタと帰ってしまう。
1人帰ってしまうと、え?帰るー?とそれぞれ準備する。
他の生徒も帰ろうと準備しだす。
私は課題が終わらない。
彼は動こうとはせずぼーっと窓の方を見ていた。

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