神楽さんと御堂研くん

第1章 /神楽さん

ファーストフードを出ると汗がにじむ。
夕方から夜に変わる時間。
空は赤く、黒くなり始めていた。
「姫、ご機嫌よう」
「いや、絶対違うだろ、それ」
井口くんのふざけた挨拶に直くんが突っ込む。
さつきちゃんはお店の横に止めていた自転車を持ってくる。
「じゃーねー神楽ちゃん」
「うん!気をつけてね!」
またねーと手を振って帰っていった。
「井口くんは自転車じゃないの?」
「俺今日歩き」
「え、遠くない?」
「そう、さつき乗せてくんなかったな」
ぼーっとさつきちゃんが去っていた方を見る。

「けんちゃんは同じ校区なのに電車だよな?」
「俺端っこだからねー」
自転車で来れなくはないけど、と小さく言う。
「直くん、陵くんと同じ中学だったっけ?」
「そうそう、電車で1時間ぐらいだな」
「わざわざ…」
井口くんがそう言うと、だよなと苦笑した。
「でも、親父が行かせたがったんだよ。母さんとの母校だからって」
本人から直接聞いたわけじゃないけど、直くんはお母さんがいない。



井口くんは適当な所で別れ、御堂くんは別の電車だからとホームで別れた。
直くんと2人、電車を待つ。
「けんちゃんのこと好きなの?」
何の脈絡もない唐突な質問。
「近藤とそんな話するの?」
答えてないのに投げかけられる質問。
「……」
その内容には口をつぐむ。
直くんは、しないよなーと笑った。
「なんでそう思うの?」
「なんとなく」
「…なんだ」
勘か。
「遠慮してる気がして」
直くんを見るとそうでしょとでも言っているようだった。
「うーん…遠慮してるかな?」
「いや、知らないんだけど」
わからないなー。
考え込んでしまう。
「さつきちゃんは誰が好きとか、誰がかっこいいとか言わない」
なんでか知らないけど、そういう話はしたがらない。
噂話とかは好きじゃないんだと思う。
「ふーん。それが不安なんだ?」
「うん。私が友達と好きな人が被ったら、言えないなー」
話題を晒してしまうと思う。
「え、そういうこと?でもそれだったら神楽さん、好きなんじゃん!」
「え?」
「けんちゃんのこと」
「…うん?」
「あ、違うの?」
「御堂くんは好いてくれるから好きなのかもしれないって思って…ただのクラスメイトで好きになってたかわからない」
だから好きって言い切れない。
直くんは難しい顔をした。
ホームに電車が入ってきた。
「俺はそれは十分理由になると思うけど」
ぼーっと電車を見つめる。
隣で私は唸る。
ゆっくりと止まると、目の前で扉が開く。
「けんちゃんの噂、気になる?」
人がぞろぞろと降りてくる。
「神楽さんなら教えてくれるんじゃない?」
多分、私じゃなくても教えてくれるよ…。
夏の夕暮れ、空には星一つ見えなかった。

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