神楽さんと御堂研くん

第2章 /御堂研くん

こういう怪我をすると、同じ中学の人とは会いたくないと思ってしまう。

コソコソと聞こえる噂話。


あ、あれほんとだったんだ…
え?なに?
虐待されてるってやつ。
え、今もなの?
ほら、痣ある…。
うわ、


家庭環境って大事だよな
あー、
やばい親に育てられたやつなんかロクなやついない
たしかに


御堂くんとこって母親同士が兄弟なんだって
じゃーなんで名字一緒なの?
なんかデカい旅館が実家らしいんだけど、嫌で逃げたらしいよ
へー金持ちじゃん
結局潰れて陵くんの家は借金だって
やば
研くん所は離婚して同じ苗字だって
母親すごいねー



自分が自分の話をしてなくても聞こえてくる噂話。
さすがの直くんも口を開く。
「けんちゃん、怒っていいよ」
じっと机を睨みつけながら低い声で言う。
直接俺の口から何も言っていないのに、怒ってくれる直くんが優しくて、嬉しくて、少し笑ってしまった。
「みんなよく知ってるね」
「それじゃーなにもかも肯定になる」
「否定しようにもあながち間違ってなくて」
そう言って笑う俺に、泣きそうな顔をした。
「直くんがそんな顔しないでよ」



「けん」
授業が終わり、少しの休憩の間、ざわざわとが煩くなる。
教室の外から少し大きな声で呼ばれる。
陵くんの声だ。
いつもなら誰かに呼んできてと頼むのに、珍しい。
「はーい」
返事をして席を立つ。
陵くんの、よく通る声により、いつもより少し静かな教室。
俺の様子をじっと見ている人が数名。

途中神楽さんと目があった。
珍しく晒されなかったから、なにー?と言うと、何でもないと首を振りながら少し肩をすぼめた。
その表情が優しくて、俺はなぜか悲しかった。



陵くんはちょっといい?と聞くなり廊下を歩く。
「楓さん?」
母の名前だ。
「あー、違う違う。叶恵」
少し呆れた声が出た。
「そっか…」
ホッとしたように見えた。

知っているのだ。
母の奇行を。

「ごめんね、ちょっと落ち着いてたのに、陵くんにも被害が…」
俺が噂されると一緒に陵くんも話題に上がる。
「俺はいいよ、気にしてない」
本当に気にしてないように見えた。
「強いなー、ほんとに、尊敬してる…」
自分が情けないから、羨ましく思う。

「辛くなったら言えよ、俺知ってるから」

…?

「なにが?」
一瞬、その言葉に思考が止まりかけたが、出来るだけ間髪入れずに聞き返した。
なにかを聞きそびれてしまうと思ったから。
意味深な言葉。何の話だろう。

まだなにか、俺たちにあるのだろうか…。

「仕事」
ニッと悪戯っ子みたいな笑顔を見せる。
そこには他意を感じない。
気のせいだったのだろうか。
「え、困ってないんだけど」
「家出ようとしてんじゃねーの?」
「あー、そゆことか。なに?やばいバイトしてんのー?」
「なわけ。ツテで夜中雇ってもらってんだよ」
「なるほど。日当が良いと」
「そゆこと」
陵くんだから出来るよなーとガタイの良い体を見る。
誰でも出来るよやる気があれば、と冷たい目で返される。

大半のことはそうだよな、とは思う。

「実質三年で家出るぐらいのお金貯めれんのかな」
「使わなければいけるだろ」
そんな話をしていると予鈴がなった。
気づけば旧校舎まで来ていた。
「やば、五分で戻れるかな」
振り返り急いで来た道を歩く。
「けん、俺次移動だったわ」
「え、走ろーよ、なんで諦めてんの!?」
嫌そうな陵くんを急かし、走って教室に戻る。


陵くん、研くんに会いたくてこの学校来たらしいよ
なにそれ、いとこ愛やばいねー


下らない噂の中にひとつだけ嬉しいものがあった。
それが本当であればいいなと思っていた。

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