神楽さんと御堂研くん

第2章 /神楽さん

珍しくさつきちゃんからスマホに連絡が入った。
" 今日は食堂で食べるね!神楽ちゃんは教室で食べてー! "

「姫、おはよ」
いつの間に教室に入ってきたのか、井口くんは私のそばに立つ。
「おはよう。あ、あのね、さつきちゃんが今日は食堂で食べるって」
「あー、誘われたの?」
「ううんー、私はこっちで食べてもいいって…でも一応、見に行こうかな」
「ふーん、やさしーねー姫は」
少し嫌味っぽい井口くんを不思議に思い、首を傾げてしまう。
私と目が合うと、苦笑した。
「ごめん、なんでもないよ」
「ん?」
「姫は気にしなくていい」
そうなんだ。
「あ!」
井口くんなら御堂くんのこと、噂だけじゃないこと、知っているかもしれない。
そう思って、つい声が出てしまった。
「なに?」
「あー…ううん、なんでもない」
聞いちゃいけないよね。
これじゃあ直くんにも怒られる。
周りと一緒だって思われる。
「なあ、姫」
「はい」
「なんかあったら言えよ?」
珍しく優しい言葉をかけてくれる井口くん。

え?

思わず見上げると、視線は窓側の遠くの方、御堂くんを見ていた。
心配なんだろうな…。

「うん」
「姫にしか言わないこと、絶対あるから」
井口くんの言葉に、少し泣きそうになった。
あるかな、そんなこと…。


食堂を覗くと端っこで一人、さつきちゃんはカレーを頬張っていた。
近づくと顔を上げる。
目があったさつきちゃんは情けなさそうに笑った。
「一緒に食べていい?」
「うん」
持ってきたお弁当を広げた。


「嫌なこと言っていい?」
少しして、さつきちゃんが口を開く。
「けんちゃんは、やめた方がいいと思う」
言いにくそうに、でも少し強くいう。
目は合わない。
「どうして?」
そう言って首を傾げると、さつきちゃんはパッと顔を上げた。
真っ直ぐ見る私を見て、少しだけ瞳が揺らいだ気がした。
「付き合ってどうするの?結婚したいと思う?だとしたら、やめた方がいいと思う」
「……」

「結婚って、本人だけのものじゃない。家庭同士の問題だから、相手の家族とも仲良くしないといけないんだよ?神楽ちゃんは、けんちゃんのお母さんと仲良くできると思う?子供に手をあげるような人と、仲良くできる?」

きつい口調に驚いた。
内容にも驚いた。

そんなこと考えるんだって思った。

うん、でもそうだよね、何も考えてなかった。
何も考えてなかったな……。

私が黙っていると、小さな声が聞こえた。
「ごめんね」
スプーンを握りしめる手に力が入っている。
「どうして謝るの?」
「応援してあげれなくて」
「でも、私を想って言ってくれてるのだと思った」
「そうだけど……」
「自分で考えるから大丈夫だよ」

これは、好きな人を取るか、友達を取るか、と考えればいいのだろうか……。

御堂くんのことは、好きと言えば好きだけど、付き合っているわけでもないし……。
考え込んでしまうと、更に無口になってしまう。

「お姉ちゃんがね」
さつきちゃんが少し明るい声を出した。
スプーンでカレーをすくう。
「お姉ちゃんが、4年も付き合った人と結婚式の予約までして別れたの」
すくったカレーを口へ運ぶ。

食べながら、雑談。

そんな雰囲気を出してくれるけど、私はお弁当に手をつける気にならない。

じっとさつきちゃんを見つめる。

「向こうの両親とお姉ちゃんが合わなくてね。お姉ちゃんは頑張ってたんだけど、相手に拒否されたら終わりじゃん?それで……」
さつきちゃんは少し涙を浮かべていた。
「悲しかったんだ……大好きなお姉ちゃんが、そんな扱いを受けて……頑張ってたの、知ってたから」
「……うん」
「神楽ちゃんのそんな姿、私は見たくない。変なこと言ってごめんね、神楽ちゃんがしんどくないなら、それでいいんだ」
さつきちゃんが優しい笑顔を浮かべるから、私は心が痛くなった。
さつきちゃん、私、何もしてないんだ……。
御堂くんに好きとも、好きじゃないとも言ってない。
ただ好かれてるんだなーって思ってるだけ。


私いま、すごく狡い。

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