神楽さんと御堂研くん

第3章 /近藤さつき

テスト初日。
朝目が覚めると、憂鬱な気分になる。
学校、行くのか…といつも以上にベッドから出たくなくなる。


自分の部屋を出ると、すぐ隣の姉の部屋が開いていた。
少し覗くと、いつ帰ってきたのか、化粧も落とさず寝落ちしている。

「お姉ちゃん、起きて、何してるの」
声をかけながら揺らす。
ううーんと唸りながら寝返りを打つ。
「お姉ちゃん!」
「んー?…ん、さつき?」
やっと起きた。
「おはよう。化粧落とした方がいいよ」
「あー、ありがとう…眠たい」
大きな欠伸をしながら体を起こした。
「寝ちゃったみたい…」
「今日お休み?」
「そう。さつきは学校?」
「うん」
いいな、休み…私も学校休みたい…。
「お姉ちゃんが送って行ってあげようか?」
「いいの!?」
寝ぼけ眼のまま、嬉しい言葉をかけてくれる。
私が大きく頷くと、よーしと言いながら立ち上がり、そそくさとシャワーを浴びに行った。



「どうー?学校」
運転しながら、助手席に座る私をチラリと見る。
「うーん、微妙」
「え、こないだまで楽しそうだったじゃん!」
神楽ちゃんと仲良くなった時嬉しくて姉にも話したのだ。
「最近微妙」
「喧嘩したの?可愛い子と」
「喧嘩じゃない」
「ふーん」
カチカチと指示器が鳴る。
「私がね、苦手な子と仲良いの」
「あー、気まずいよね」
「けんちゃんってわかる?」
中学の時話した事がある。
いい子だけど、家庭環境最悪な子。
思わず遠ざけてしまう、と。
お姉ちゃんは、けんちゃん…けんちゃん…と言いながら思い出そうとしているのか、はたまた運転に集中していて頭が回らないのか、呟いている。
「中学の時に…」
そう言いかけた私に、ああ!と言葉を重ねてくる。
「あの子か!!」
思い出したようだ。
「その子のこと、好きなんだろうなーって」
「ふーん、さつきも仲良くすればいいじゃん。いい子なんでしょ?」
「でもさあ、ただの友達ならいいけど、好きな友達の彼氏になるのは嫌だなー」
「それは知らないけどさー、でも結局その"好きな友達"と気まずいなら意味ないよねー」
「……」
図星すぎて言葉が出ない。
「まあ、選ぶのはその子だからさー」
「違うじゃん!!お姉ちゃんが!っ、……」
言いかけた言葉を飲む。
でも遅い。
出た言葉は元には戻せない。
「なに?」
少し笑って聞いてくる。
その笑顔が怖い。
「……」
言わざるを得ない雰囲気。
「はぁ…もう、なによ。なんか言った?私」
少しイライラした声。
「…お姉ちゃんが、彼氏の両親と上手くいなかったから」
赤信号で止まる車。
何も言わない姉。
「神楽ちゃんには、悲しい思いして欲しくない」
それは本当に思っていた事だった。
「だからけんちゃんはやめてほしい」
青信号に変わり、車が動き出す。
「なるほどね」
さっきとは違う、落ち着いた声。
もう怒ってない。
「さつきにはそう見えてたわけだ?」
え?
「どういうこと?」
「あいつが、彼氏がね、何を差し置いても私をかばって、守ってくれるなら…一番大切に思ってくれるなら、ご両親が怖くても、一緒になってたと思う」
「……」
「守ってくれなかった。庇ってくれなかった。親の肩を持つんだもん、一緒に生きていくのは両親じゃなくて、結局は彼氏だってのに、あいつ、全然なんだもん…そういうのが嫌になっちゃったんだ」
「そう、だったんだ…」
「その、けんちゃんって子がどんな子か知らないけどさ、さつきの可愛い大好きな友達の事、一番に思ってるならそれでいいんじゃないかな?」
「……」
「さつき自身もそういう人見つけなさい」
「……」
「ありがとうね、さつきがお姉ちゃんのこと大好きなのは今のでよく分かった」
少しふざけた口調で笑いながらそんな事を言う。
私は黙ったまま。
「え!なに泣いてんの!?」
涙を流していた。
「ええー、泣くとこあった!?」
色々、思う。
知らなかったお姉ちゃんの状況も、けんちゃんに悪いことしたなって事も、神楽ちゃんには嫌な思いさせてたなって事も、色々思って涙が出てきた。
「ううーー……」
「いや、いいんだけどさ、さつきちゃん、もう着くよ?」
そう言いながら学校近くを遠回りしてくれるお姉ちゃん。
めっちゃ優しいじゃん…。
そう思うと更に涙が止まらなかった。

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