神楽さんと御堂研くん

第3章 /御堂陵

テスト1日目が終わり、さらと共に図書室で勉強していた。
直帰する生徒が多く、図書室には人がいない。

誰も来ないだろう、と思っていると扉が開いた。

「あ、陵くん」
「おー、久しぶり」
隣でノートにシャーペンを走らせていたさらも顔をあげる。
おはよう!と挨拶する。
「あれ?お邪魔?」
そんなことを言いつつ、俺の正面に座る。
俺とは違う、くせっ毛の柔らかそうな髪を揺らす。
屈託ない笑顔を見せる御堂研。
俺のいとこだ。

窓に面した机、少し覗けば外が見える。
「みんな帰ってくねー」
頬杖をついて外を見る姿は、どこぞの大学生かと思う。

そこらの男子より大人っぽく見える。
俺がこいつの環境を知っているからか…。

切れ長の目がこちらを見た。
なにも言わない俺が気になったのか、少し笑って見せた。
「さすがに今日はな、何もねーしな」
手に持っていたシャーペンを置いた。

「御堂くんは?今日はバイトないの?」
さらが手を止めてけんを見る。
「さすがに入れなかったなー。陵くんは?」
「俺も入れてない」
だよなーと言いながら鞄からノートを出す。
「あ、邪魔じゃない?」
冗談とか茶化しているとかじゃない。
俺の顔色を伺う。

「さすがに学校では勉強する」
俺の冗談に、さらが笑う。
「あはは!バカじゃん」
「そういう意味で聞いてないよ」
けんも小さく笑った。

図書室には3人分のペンが走る音が響く。

ふと顔をあげると、いつの間にか、一点を見つめるけんがいた。
その視線の先は、窓の外。
髪の長い女子と、少し背の低い男子生徒。
…あ、あの子だ。
「けん?大丈夫か?」
「え?何が?」
笑みを浮かべたけんの目は、笑っていない。
口角だけあげる。
「、…」
初めて、何も言えないと思った。
「大丈夫だよ」
ふいとノートに視線を戻してそっぽを向く。


俺の家は工場だ。
経営が傾いた時、親がバタバタしているのを見て、うんざりした。
こんな家…と。
それが学校生活にも影響して、全然喋らない俺にクラスの男子が無視をし始めた。

" ちょっとモテるからって調子に乗るなよ "と。


手が止まったままのけん。
「けん、」
「陵くん」
言葉に重ねるように俺の名を呼ぶ。
強い口調だった。
「別に、大丈夫だから」
少しため息混じり。
「俺、気にしてもらう必要ないから」
呆れたように言う。
「わざわざ、喋りかけなくていいから」
「俺は」

「別に!可哀想じゃないから!」

立ち上がった拍子に椅子が倒れる。
大きい音が図書室に響く。
知らないふりして、ノートにペンを走らせていたさらも、ノートに視線を落としたまま固まっていた。


肩で息をしていたけんが、ハッとして、ごめんと呟いた。
「けん、家、大変か?」
「大丈夫、別に大変じゃない」
机に広げていたノートを閉じる。
出していたペンを筆箱へ片付けていく。
それを拾う指は震えていた。
俺は思わずため息をついた。
「っ、」
「あっちもこっちもそんなに忙しくしたらそりゃそーなるだろ」
「……」
俯いたまま何も言わない。
「家事やって、バイトして勉強して…お前どこで休んでんだよ」
「家事やるのだって普通だって!今までだってやってたよ、」
呆れたように言う。
「だから、それは中学までの話だろ!?」
こんな風に無駄にキレられて、お前がその態度かよ。
呆れる。
「今はバイトもしてんだろ、お前」
「するだろ!普通!みんなやってるよ!」
声を荒げるけんに、思わずカッとする。
「やってねーよ!!そこまでやってねーだろ!誰がテスト期間にバイトしてんだよ!お前自身に余裕ねーからそうなんだろ!?」
「っ…」
「自分の限界ぐらい自分で気づけよ…」
腹が立つ。
何が可哀想だよ、思ってねーよ。

0
  • しおりをはさむ
  • 8
  • 42
/ 46ページ
このページを編集する