神楽さんと御堂研くん

第5章 /井口隼人

たまたま、本当にたまたま靴箱の前を通り過ぎるとき、直くんに会った。

「おー!」
「おー、久しぶり」
「今日昼行ったんだけど」
「けんちゃんに会いにだろ」
顔は笑っているが、相変わらず目が合わない。
俺とも気まずいのか。
「なにー?喧嘩ー?」
「いや、そんなんじゃないけど…」
靴を履き終えると玄関口へ歩いていく。
あー、喋る気もない…か。
俺は職員室の方へと向かおうとすると、名前を呼ばれた。
「隼人、帰んねーの?」
振り返って不思議そうに首をかしげる。
「俺、今日チャリなんだけど」
直くんとは帰り道が途中で分かれる。
「駅まで乗せてくれんじゃないの?」
はははと笑いながら言った言葉は、直くんなりの行動なんだろう。
仲良くする気はあるよ、と。そういうことなんだろう。
「しゃーねーなあ」
笑ってしまった俺は、なかなか格好悪かったと思う。
顔に嬉しいと、出てしまった気がする。
それも、まあいいかと思えるぐらいには嬉しかった。


「あれ?リュックだっけ?」
後ろをついて歩く直くん。
「あー、今日はな」
「今日に限ってな」
「そうそう」
「そうそうじゃねーよ。邪魔だからカゴに入れろ」
背負った鞄を叩かれる。
「前は入んねーよ。直くんが背負えばいい」
「俺のを入れてくれんの?」
「おー、両方持てば?」
「やだよ、入れろよ」
勝手にカゴに自分の鞄を押し込む。
乱暴だなーと言うと、どっちがだよ、と笑った。


「姫のこと、好きになっちゃったの?」
赤信号で止まったタイミングで声をかけた。
後ろに座った直くんは何も言わなくなってしまう。

ストレート過ぎたか?

「まあでも、邪魔はしない」
肯定の意味を込めて、か。
「え?邪魔か?誰を好きになるかは姫次第だろ」
「え?」
「今日も俺が会いに行ったら嬉しそうにしてた」
「いや、お前…馬鹿かよ」
俺の言葉に呆れたように小さく笑った。
目の前を横切る車を目で追う。
今のセダン、女が運転してたなー。
「やー、でもガチで。あの手の子は誰でもいくぞ」
「失礼だな」
「だって、けんも押しまくってたじゃん」
「あー…」
「だから姫も好意的に思ってるんじゃん?」
青信号に変わる。
自転車は漕ぎ出しがしんどい。
野郎じゃなくて女の子乗せたかったなー。
「うーん、まあ確かに」
あ、納得しちゃうんだ。
「まあ、別にどっちでもいいんだけど、俺は。関係ねーし」
誰が誰と付き合おうが結構どうでもいい。
「そーか」

好きなら好きでいいと思う。
姫が直くんを好きになっても、それはそれでいいと思う。
姫のけんへの好きがどれくらいのものか俺にはよくわからないから。

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