神楽さんと御堂研くん

第5章 /神楽さん

けんちゃんが教室を出て行ったのが見えて慌てて教室を出た。
「あ!神楽さん!」
その瞬間、呼び止められた。
ちょうど扉を出た所で立ち止まる。
「私、美術の係なんだけど…」
あぁ、帰っちゃう…。
そんな事を考えていると、廊下の少し先からけんちゃんの声が聞こえた。

「けんちゃんもカラオケ行かない?」
「あー、また今度!」
「今度って何回目よー」
「行く気ないじゃんー」
「あれ?そうだっけ?」
笑いながらあしらいつつも足を止めて喋っている。
カラオケ、行くのかな…。
「あ、ねえ。駅の向こう側にカフェあるらしいんだけど、」
よく通る少し高い余所行きの声。
「レトロでオシャレなんだって」
スマホを触りながら女の子達に画面を見せている。
「へー!可愛い!!」
「いーじゃん!ここ行こうよー」
「けんちゃんもだよねー?」
1人の女の子がけんちゃんの腕を触る。

わあ、あれ、私出来ないや。

けんちゃんは、あ!っと言いながらさっと離れた。
「俺、今日は行けないんだけど、男1人でも入れるか見てきてよ」
にっこり笑顔を向ける。
「え?1人で行くの?」
「一緒に行こうよー」
「違うじゃん、誰も捕まらなかった時の暇つぶし場所じゃん」
「なるほど!」
「お洒落な所選ぶねー」
「いいでしょ」
少しドヤ顔をする。
可愛い。
そんな顔見せないでほしい。


「神楽さん!」

呼び止めた子がよそ見している私の名前を少し大きな声で呼んだ。
「あ、ごめんなさい」
「ううん、…ふふ、見過ぎ」
笑われてしまった。



けんちゃんと喋っていた女の子達はこちらへ歩いてきて通り過ぎた。
私はさっきまでけんちゃんがいたそこに目を向けた。

私に気がつくと、口角を上げ首を傾げた。
「彼氏さん呼んでるね」
「彼氏じゃない…」
小さな声で否定した。
「じゃー提出物、夏休み入る前までだから、よろしくね」
ばいばいと手を振って帰っていった。
けんちゃんはその場で壁にもたれてスマホを触っている。
私に気づくとスマホをポケットにしまって、下駄箱の方へ足を向けた。
目は私を呼んでいた。
小走りで横に並ぶ。
「帰るの?」
「うん」
「バイトは?」
「ないよー」
悪びれた様子のない姿に笑ってしまう。
「悪い子だー」
「あー、盗み聞きだー」
一瞬口を抑える。
バレた。
そしてなんでもないように、ん?と首を傾げてみせる。
けんちゃんは私を見て笑っていた。


「どのぐらいバイトしてるの?」
玄関を出ると、日差しが強く、目を細めてしまう。
「週5とかかな?」
「忙しいね」
「まあねー」
目の前を二人乗りの自転車が横切った。
「その方がいいんだ…あれ?」
漕いでたのはたぶん井口くんだった。
後ろには直くんの姿。
私はけんちゃんと2人、顔を合わせた。
「だよね?」
「だったね」
少し笑った。

「仲良しだねー」
「そうだね」
「井口くん、取られた気分?」
そんな事を聞く私に爆笑する。
「あははは!いや!女の子じゃないんだから!別に隼人が誰とどうとか思わないよ!」
そんな笑わなくても…。
けんちゃんは笑いながら、可愛いなーと言う。
何が面白くて何が可愛いのか…。

ひとしきり笑うと、よかったと呟いた。
「何が?」
「直くんと隼人、ふつうに仲良くて」
「ああ、」
「俺のせいで喋らなくなるとか嫌じゃん?」
「けんちゃんのせいなの?」
「うーん…うん、違うか。そんなに関係ないかな」
よくわからないが、1人納得したように、そうか、違うよな、と呟く。
「俺、関係ないわ!そういえば!」
「そうなの?よくわかんないけど」
けんちゃんの方に顔を向けたと同時にけんちゃんが、あ、と声を出した。
視線の先には井口くんと直くんがいた。

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