神楽さんと御堂研くん

第6章 /神楽さん

けんちゃんの後ろには佐伯さんが立っていた。
「けんちゃんが描いちゃダメだよ」
見下ろす姿は少し威圧的だった。
「あ、ごめんね」
ふわりと人懐っこい笑顔を向ける。
「美術室、私いくけど、神楽さんは?」
「あ、後で…」
少し怖い…。
「わかった、待ってるね」
にっこり笑った佐伯さんは教室を出て行った。
じっと佐伯さんを見るけんちゃん。
逆に私はけんちゃんをじっと見る。

なんでそんなに見つめるの?

そんな思いが沸く中、けんちゃんは視線を私へと向けた。
「俺、嫌われてる?」
予想外の言葉に首を横に振った。
「そんなことないよ、きっと」
「俺、佐伯さんと同中なんだけど、そんなに喋ったことないのに…神楽さんの友達に嫌われること多くない?」
机にうなだれる。
私の言葉は聞いていないようだ。
「そんなことないよ」
佐伯さんは、私の友達なのだろうか?
「俺がちょっかいかけてたの見てたのかな」
さっきより随分小さい、独り言のような言葉。
ん?
「ちょっかいかけてたの?」
彼が私に構うのは、ちょっかいなのか。
「かけ、た、けど…かけてない!」
「ええ、なに?」

唸るけんちゃんに思わず笑ってしまう。

「なんかけんちゃんは、みんなと仲がいいから、誰からも嫌われないんだと思ってた」
小さく笑う私に、ムッとする。
それが可愛らしくて更に笑みがこぼれる。
「俺は誰とも仲良くないよ…神楽さんだけ」
そう言いながらふいっと廊下に目を向ける。
そっぽを向いたけんちゃん。
私はなぜか顔が熱くなる。

からかわれている。

なのにまんまと照れてしまう。

ああ、恥ずかしい。

パンをかじりながら、ちらりと伺うように目を向けられる。
目が合って、更に熱くなる。

ああほんと、恥ずかしい…。

「っふふふ…」
堪えきれず吹き出すように笑うけんちゃん。
「笑い方!変!」
「いや、なんか嬉しすぎて」
あたふたしている私がおかしいのか、満面の笑みだ。

嫌な子…。

「神楽さん神楽さん」
楽しそうに私を呼ぶ。
「なに?」
「えへへ、好きだなって」


「っ、……」


立ち上がる私。
私の表情を見て、笑顔から、しまったという顔をしたけんちゃん。
すぐに表情を隠して満面の愛想笑いをした。

「え?」

どうしたの?といった感じで首を傾げられる。

いや、…いやいやいや、

「ん?」

何かあった?と無言の圧力。

「え?あ、…」
聞き間違い?

「…なんでもない」
思わずそう答えて、席に座り直した私。
そっかーと笑顔を作っている。
パンを口に突っ込むとカバンを持って、席を立つ。
「それじゃあ、行くね。邪魔してごめんね」
少し早口で言い切る。
「うん、あ、全然」
私はじっと見つめる。
私の視線に耐えきれず目を合わすけんちゃん。
今度はけんちゃんがみるみるうちに顔を赤くした。
「さっきの、」
「ごめん!」
「え?」
「俺、まだ、聞く勇気ない」

何がだろう…。

「何も言わないで」

小さな小さな声を発する彼は、泣きそうな表情だった。

「…わかった」

泣きそうな彼を見て、私が 泣きそうになった 。

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