ランピード・フォルス【完】

最終章 /後編・あの子が還る場所




使ったことがないメーカーのシャンプーとコンディショナーにボディソープ。


自分のとこより遥かに広いバスルームの鏡に映っている私の肩にはナイロン製のケープがかけられていて、後ろにいる久遠先生の右手にはハサミが握られている。



「人に向けてハサミを持つのはオペの時だけだと思ってたよ」

「すいません。こんなこと頼んじゃって。この髪も5年分の思い出だから私のことを全然知らない人に切られるのは嫌だったんです」


「けど友達とかのほうがよかったんじゃない?この長い髪切るの勿体ないとは思うけど俺は惜しみながら切ることは出来ないよ?」

「それでいいんです。髪のお葬式に立ち合ってくれるだけでいいんです」


「髪のお葬式ねぇ…斬髪式ってやつか」

先生は気乗りしないような顔をして私の後ろ髪を軽く掬い上げた。


「というか、上手く揃えられるかな」

手のひらに乗せた私の髪を見ながら先生は独り言みたいに呟く。


「きちんと揃えなくてもいいですよ」

「まぁ、もしもの時はすぐに美容院に送ってくよ」

「大丈夫ですって。私は先生の腕を信じてます」



鏡越しに目が合って、先生は引きつり笑いを見せるように唇の片端をピクピクと動かした。


「何だろ…命預かってるわけじゃないのにオペの時よりプレッシャー感じる」




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