不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語

エピローグ




 二月、人事異動があり、那智は秘書になった。

 専務室の窓から外を見る。

「綺麗な夕焼けですねー」
と伸びをしかけて、止められる。

「手を挙げるな」

 こちらを振り返らないまま言う遥人を振り返り、よくわかったな、と思った。

「手を挙げろってのはよく聞きますが、手を挙げるなってのは珍しいですね」

 遥人は椅子を回して振り返り、
「妊娠中は手を挙げるとよくないって言うじゃないか」
とまだ生まれてもいないのに、既に父親の顔になって、言ってくる。

 桜田さんもこうだったのかな、と思うと、なんとなくおかしくなってくる。

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